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小日向京のひねもす文房具|第百八回「鳩居堂 シルク刷はがき」


小日向京のひねもす文房具|第百八回「鳩居堂 シルク刷はがき」

「はがきを書くのは年賀状がメインイベント」という文具好きでも、文具売場のはがきコーナーでこれは素敵だな…と目に留まるのが鳩居堂のシルク刷はがきなのではないでしょうか。
季節に応じた絵柄が、随時入れ替わり売場に並んでいます。
これから秋を迎えようというこの時季ならば、写真のカラスウリやクリ、モミジといった絵柄があり、絵柄の配置もさまざまで、書きたい文面に応じて選ぶ楽しみも増す雰囲気です。
裏面には郵便番号欄と切手を貼る場所の印があり、便りを一筆書いたら宛名を記して手軽に送ることができる作りになっています。

このはがきは本当に美しい!
売場で目にするたびに、
「ああ、もうこんな季節なのか。あの人はどのようにお過ごしだろう。久しぶりに便りを書いてみようかしら」
という気持ちになります。
そしてあの人にはこの絵柄かな、この人にはあの絵柄かな、と選びながら、うーん自分にもこの絵柄は絶対とっておきたいぞ…という気持ちになり、ついつい2〜3枚ずつ購入してしまうのが常。
心を鬼にして「今回は1枚ずつにする!」と決意しても、そのぶん多くの絵柄が増えてしまうか、あとから書く段になって「やっぱりこれ自分にも欲しい〜」と再び買い求めに行く羽目になることは必至。そんな顛末を数十年と繰り返して、ようやく「1柄につき2枚から買うべし」と悟りました。

小日向京のひねもす文房具|第百八回「鳩居堂 シルク刷はがき」

印刷は、シルクスクリーン印刷です。インクが通過する部分と通過しない部分を設けて製版された版画の技法で、インクが紙の上へ薄く盛られるように印刷されるところがシルクスクリーン印刷の魅力です。指で触れると、活版印刷では「あっ、凹んでいる…」とうっとりするのが、シルクスクリーン印刷では「あっ、盛られている…」と見惚れるという違いがあり、どちらもエッジ感の冴える凹凸が魅力。そのシルクスクリーン印刷に、シンプルな絵柄の美しさと繊細な描線が抜群に合っています。

小日向京のひねもす文房具|第百八回「鳩居堂 シルク刷はがき」

御礼のメッセージをしたためてみました。絵柄は、ナナカマドです。多色刷りの色合わせが素敵! 両側は、秋の深まる頃に筆を走らせたくなる柿の絵柄2種です。
万年筆はデルタ ビンテージの字幅Fを、インクはウォーターマンのミステリアスブルーを使いました。
鳩居堂のシルク刷はがきは、クリームがかった厚手の用紙が筆記具を選ばず、万年筆にもぴったり向きます。ふだんの紙─たとえばトモエリバーやMDペーパーやグラフィーロなど─よりもいくぶん字幅が引き締まる感覚で、それはインクをよく吸いながらもにじまない紙の特性があるのでしょう。心持ちホロホロとした質感が描線に出るところも美的で、人に伝えるメッセージを際立たせてくれる紙です。

このはがきは、あまりにも素敵でいつも眺めていたくなるため、本やノートの栞に使うのも一案。その途中経過ではがきにメモもしてしまい、書き込んでいったら1枚の情報カードができ上がっていた…という親しみかたにも合いそうですね。
また、絵柄に似合うインクが思い付いたら、似合う言葉を書いてみるのも良さそうです。書いたはがきは、クリアポケットホルダーへ。枚数を重ねるにつれて、自分のインク見本帳が彩られることでしょう。

こうした季節をモチーフとしたはがきは、ともすると好みが分かれることがあり、便りを送る相手の好みを考え合わせるとなかなか選びづらいものですが、この鳩居堂シルク刷はがきはその難しい部分が実にニュートラルで、誰の目にもたいてい「好ましい」という印象を抱いてもらえるところが、大変に稀有な存在だと感じます。

自分の気に入った絵柄や、人に似合いそうな絵柄を求めたら、手帳やノートへ切手とともにしのばせて。ちょっとした喫茶店でのひとときなどに筆を走らせてみると、郵便ポストを探す足取りも軽やかに、次の予定へと向かえることでしょう。

小日向 京(こひなた きょう)

文具ライター。
文字を書くことや文房具について著述している。
『趣味の文具箱』(エイ出版社刊)に「手書き人」「旅は文具を連れて」を連載中。
著書に『考える鉛筆』(アスペクト刊)がある。
「飾り原稿用紙」(あたぼうステーショナリー)の監修など、文具アドバイザーとしても活動している。

小日向京のひねもす文房具

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