万年筆の使い方や洗浄方法
もくじ
万年筆とは
万年筆のペン先は使い込むほどに自分の書き方に馴染んで、なめらかに使いやすくなっていきます。 そして、使い続けた万年筆は自分だけにあった1本へと成長します。 万年筆はただ文字を書くだけでなく成長も楽しめる筆記具です。 そんな自分にあったペン先で、好みのインクの滲みや濃淡を楽しみながら文字を書くひとときは、パソコンやボールペンを使って過ごす日常とは少し違った世界を楽しむことができます。ただ、他の筆記具と違い万年筆はこまめなお手入れや洗浄など使い方に気を使う事が多そうなイメージがあるためどちらかというと敬遠されがちな筆記具でもあります。 確かに万年筆はインクの付け替えや保管などいくつかの注意点がありますが、逆に一生懸命手をかけながら育てる万年筆ほど愛着のある1本となり、自分の書きグセを覚えて育ちながら手に馴染んでいきます。 万年筆はそのメーカーによっても書き味が全然違います。 日本の代表的な万年筆メーカーとしては- パイロット
- セーラー万年筆
- プラチナ万年筆
- 中屋万年筆
万年筆の仕組み
それではまず基本的な万年筆の仕組みを見てみましょう。 万年筆メーカー(ブランド)によって作りや名称(呼び名)が異なりますが主要部分の役割は同じです。 万年筆で文字を書くのに重要な部分は【ペン先】【ペンポイント】【ペン芯】の3つです。ペン先
万年筆のペン先は金を採用したものが代表的です。 これはインクの酸に侵されず、適度な弾力性による書き味が楽しめるためです。 14金/18金/21金と万年筆メーカーやブランドによって様々なペン先の万年筆が販売されております。 一般的に金は数字が大きい程柔らかくなりますが、ペン先の形や厚みといった形状の違いで硬さ・弾力が変わります。 よって、同じ14金のペン先でも万年筆メーカーやブランドによって書き味が異なってくることもあります。 また、現在では腐食しにくいスチールペン先もあります。 スチールのペン先は比較的安価なので、万年筆初心者の方などの入門万年筆として広く親しまれております。 ※ナガサワ文具センターのオリジナルクリア万年筆やラミー万年筆等ペンポイント
万年筆で文字を書く場合は一定の筆圧を持って様々な紙の上を走り続けます。 14金/18金/21金のように金を用いた柔らかいペン先では先端が摩耗してしまいます。 これを防ぐために万年筆はペン先の先端に「ペンポイント(耐摩耗合金)」が付いています。 字幅(EF/F/M/B等)やインクフローなどは、このペンポイントに影響されます。 よほどの事がない限りペンポイントが取れてしまう事はありませんが、万が一無くなってしまえばもちろん万年筆として機能しなくなり文字が書けなくなってしまいます。ペン芯
万年筆のペン先にインクを送るための部品です。 文字を書いた時にペン先から流出したインクの分だけ万年筆胴内に空気を入れ、その独特な形状を利用した毛細管現象で次から次へと書き続けることができる仕組みとなっております。 ペン先もメーカー(ブランド)により多少の違いはあるものの、役割は同じです。 万年筆の心臓と呼ばれるぐらい重要な部分となります。万年筆インクの入れ方
万年筆のインクを入れる方式は大きく分けると2つあります。カートリッジインクを使う
ボールペンやシャープペンに慣れている方から見ると、万年筆と言えばインクを入れるのが面倒なイメージがありますが、最近では簡単に交換できるカートリッジ式のインクも販売されておりますので、万年筆初心者の方や外出先で万年筆を使う事が多い方はまずこのカートリッジ式インクを試してみるのはいかがでしょうか。 お手持ちの万年筆に合った形状のカートリッジをご用意ください。 この時、形状が違うカートリッジを万年筆に挿入すると万年筆本体が壊れてしまう可能性もありますので、十分にご注意ください。 通常はお手持ちの万年筆メーカーと同じメーカーのカートリッジインクをご使用いただければ問題ないと思います。 不安な方はナガサワ文具センター店舗まで万年筆とカートリッジを持参して販売員に確認を取ってみてください。遠方の方はお問い合わせフォームよりお問い合わせください。吸入式万年筆やコンバーターを使う
カートリッジインクはどうしても色数が少ないのですが、吸入用の万年筆インクは様々なメーカーからたくさんのインクが販売されております。 カートリッジインクと比べると吸入式は吸入やお手入れに少し手間はかかりますが、豊富なカラーバリエーションを楽しめたり、万年筆内に残ったインクをボトルに戻せるので経済的?でもあります。 インクを吸入している時に快感を覚える万年筆ユーザーもいるぐらいです。 万年筆に慣れてきたらぜひ自分の好みの色のインクを探して吸入してみてください。その時初めてお気に入りの万年筆に命が吹き込まれるような感じになります。 カートリッジ式万年筆でも「コンバーター」を使えば吸入式万年筆と同じようにインクボトルから吸入して使用する事ができます。 ※カートリッジ専用でコンバーターの使えない万年筆もありますのでご注意ください 万年筆購入時は- カートリッジ専用万年筆なのか
- 吸入式万年筆なのか
- カートリッジ/コンバーター両用式万年筆なのか
インクカートリッジの装着方法
簡単に取り外しができるインクカートリッジは、万年筆の同軸を外し、ペン先を上に向け、インクカートリッジを差し込みます。 この時、メーカーによっては差し込みが少し硬く大変ですが、インクカートリッジは回さずに真っすぐに差し込みましょう。 ※回しながら差し込むと万年筆首軸の内部を傷めてしまう事がありますのでご注意ください インクカートリッジを装着したら、インクが万年筆の先端に到着するまでしばらく時間を置いてから試し書きをしてみましょう。 インクが出てこない場合は、インクカートリッジを側面から軽く押してペン先側にインクを送りだすとスッと書けるようになります。 ※インクカートリッジは万年筆メーカー(ブランド)によって形状が異なるので、必ずお手持ちの万年筆と形状の合うインクカートリッジをご使用ください両用式万年筆とは
コンバーターを使えば吸入専用万年筆のようにボトルインクからインクを吸入して使う事ができます。 現在一般的なのが、このコンバーターとカートリッジの両方が使用できる両用式万年筆です。 ※一部コンバーターを使用できないモデルもあるのでご注意ください この両用式万年筆はボトルインクもカートリッジも使えるので用途によって使い分けが可能です。 コンバーターもカートリッジ同様に万年筆メーカー(ブランド)によって形状が異なりますので、必ずお手持ちの万年筆に合うコンバーターをご使用ください。コンバーターに万年筆インクを入れる方法
ここでは、若い女性や万年筆初心者の方から玄人の方にまで幅広い人気の「ラミーサファリ万年筆(スケルトンタイプ)」を使ってご説明いたします。コンバーターの使い方
- カートリッジインク同様にコンバーターを首軸に真っすぐに差し込みます。
※中にある突起の部分と噛み合わせる形になりますのでこの突起部分を傷めないように気を付けてください - インクはコンバーター内のピストンで吸い上げますのでまず、ピストンをつまみ(赤い部分)を回し下まで下げた状態(A)にし、その状態でペン先をボトルインクに浸し先ほどと逆方向に回しながらインクを吸い上げます(B)。
※万年筆のペン先をボトルインクの底に当ててしまうとペン先が傷んでしまうので注意しましょう - インクの吸入が終わったらペン先と首軸の部分をよく拭き取って万年筆のインク充填は完了です。
万年筆の使い方・書き方
万年筆とボールペンの違い
ボールペンは手軽で実用性も高い油性。 揮発、乾燥に強い、書いた文字が変質しにくい、筆記距離が長いのが特徴です。 ボールとホルダーの隙間にインクが流れボールに定着したインクを紙面に伝えます。 このボールを回すためにある程度の筆圧が必要となってきます。 一方、万年筆ではペン芯の毛細管現象を利用してペン先、ペンポイントへとインクが流れるので、ボールペンと違って余計な筆圧をかけなくても文字が書くことができます。 インクを出すことで次のインクが流れてくるという仕組みになっております。 極端な話ですが、万年筆は手のひらに添えて引くだけでも線を書くことができます。強い筆圧は必要ありません。 ボールペンのように筆圧をかけすぎてしまうとペン先が開いたり曲がったりして文字が割れたり、書けなくなってしまうこともあるので注意してください。 万年筆で文字を書く際は、ペン先の刻印のある面を上(表)向きにして、ボールペンよりもやや寝かせ気味に書きます。 キャップは万年筆本体の後ろに差すことでベストなバランスになるように設計されていますが、好みにより外していただいても結構です。 少し難しそうに思われがちですが、万年筆は簡単なポイントさえ押さえられれば毎日手軽に使える筆記具です。 また、昨今ではこのデジタル社会に信じ難いのですが、万年筆に魅了されてしまう方が若い女性を中心に増え続けているようです。 万年筆で書いた文字には深みがあり気持ちまで表現できるような気さえもします。 パソコンのキーボードを叩いた文字とは違った味のある個性的な自分の文字も大切にしていきたいですね。万年筆のペン先/字幅
ペン先の種類は先に述べた通り14金/18金/21金などの種類がありますが、更に様々な字幅が用意されています。 基本中の基本では、- 極細(EF:エクストラファイン)
- 細字(F:ファイン)
- 中字(M:ミディアム)
- 太字(B:ブロード)
極細(EF:エクストラファイン)
細い線がクリアに書けるのでシステム手帳などへの細かい文字の書き込み用として人気です。 また、簿記などの記帳にも適しています。 ペンポイントがかなり小さいので書く人によってはカリカリと引っ掛かる印象を持つこともあります。 ※上記画像はナガサワオリジナルプロフィット万年筆14金極細EF → システム手帳リフィル4.5mm罫細字(F:ファイン)
ノート、日記、手紙、履歴書など用途の幅は広いです。 1枚の紙にたくさんの美しいきめ細やかな文字を楽しむことができます。 最近は細い罫のノートが多いので特に人気の字幅です。 ※上記画像はナガサワオリジナルプロフィット万年筆14金細字F → MDノート7mm罫中字(M:ミディアム)
汎用性が高く、幅広く使われる定番品といえる字幅です。 手紙や少し大きめの文字を書く方におすすめです。 極細・細字に比べペンポイントが大きい分インクの出が良く感じられるので初心者の方でも万年筆で書く楽しさを感じられやすいと思います。 ※上記画像はナガサワオリジナルプロフィット万年筆14金中字M → MDノート7mm罫太字(B:ブロード)
宛名書きやサイン、チェック、校正などに大きくノビノビと書きたい方におすすめの字幅です。 一般的な筆記具としてより、ここぞという時に持っておきたい字幅です。 上記右の画像は同じような大きさで各字幅で書いてみました。B(ブロード)の太さがよくわかります。その他のペン先紹介
セーラー万年筆:ズーム(Z)
筆記角度を変えることで細字から太字まで自在に書けます。セーラー万年筆:ミュージック(MS)
一般的に楽譜用と言われておりますが、デザイン文字などにも適しています。セーラー万年筆:長刀研ぎ(ナギナタ)
ナギナタの刃型のように長く、角度をなめらかに研ぎ出したペンポイントが特徴。パイロット万年筆:ポスティング
ペン先を下向きにした極細字が書けます。小さな数字を書かれる方が好みます。パイロット万年筆:ウェーバリー
ペン先を上向きにした筆記角度を問わず書ける特殊なペン先です。中屋万年筆:軟質
ペン先の両サイドを部分的にカットした柔軟性の高いペン先です。日本の万年筆と海外の万年筆のペン先の違い
左上黒文字:ナガサワオリジナルプロフィット万年筆14金 EF(日本) 左下青文字:ラミーアルスター万年筆 EF(ドイツ) 右上黒文字:ナガサワオリジナルプロフィット万年筆14金 M(日本) 右下青文字:ラミーアルスター万年筆 M(ドイツ) 各数が多くハネ、トメ、ハライなどがある漢字を中心に用いる日本人に合わせた国産メーカーのペン先と、アルファベットなどの横文字を中心に用いられる海外(舶来)メーカーのペン先では、同じ字幅表記でも太さが違って見える場合もあります。 一般的には同じ表記でも国産万年筆メーカーより海外(舶来)万年筆メーカーの方が少し太く感じると思います。 また、ボトルインクから直接ペン先にインクをつけた状態ではインクの量が多いためカートリッジやコンバーターからペン芯に伝わって書くより太く感じる事がありますので注意が必要です。万年筆のお手入れ・洗浄方法
万年筆が書けなくなった・・・。と言われる中で一番多い原因は「インク詰まり」です。 インクの水分が蒸発してペン芯、ペン先などにインクの成分が固まって詰まっている状態です。 万年筆は長期間使用する予定がなかったり、インクを交換する時には洗浄が必要となります。 そんなに難しいものではないのでこの機会にぜひ覚えておいてください。 カートリッジインクの場合はカートリッジを取り外し、コンバーターの場合は残っているインクをボトルに戻してからペン先を洗浄します。- コップに水か40度前後のぬるま湯を用意します。
- ペン先がしっかり浸かるようにペンごとコップに入れます。
- 通常1~2時間コップに入れておけば洗浄できますが、しばらく万年筆を使用せずにほったらかしていた場合は、寝る前にぬるま湯に入れて一晩置くとより効果的です。
- ペン先をコップに浸けた直後は水がインクで濃く染まることがあるので、何度か交換してきれいな状態で行ってください。
- コンバーターの場合はコンバーターを装着したままペン先をコップに入れ、インクを吸入するように水を繰り返し出し入れすることで洗浄する事ができます。
汚れがひどい場合はコンバーターを取り外しカートリッジ同様にペン先ごと洗浄してください。 - コップからペン先を取り出したら首軸からペン先に向けて流水で洗い流し、柔らかい布で水分をよく拭き取り、乾かして洗浄は終了です。
汚れが酷い時は超音波洗浄
万年筆のインク汚れがひどい場合には超音波洗浄機を使って洗浄する方法もあります。 超音波洗浄はその性質上、強力に汚れを落とすので金メッキなども同様に落してしまうという可能性もあります。 お手持ちの万年筆が書けなくなったという場合は、頑固なインク詰まりの可能性が高いので一度お気軽にご相談ください。 超音波洗浄機はナガサワ文具センター神戸三宮本店内PenStyleDEN、大阪駅近くの梅田茶屋町店に設置しておりますのでスタッフまでお気軽にお声掛けください。コラム:わたしと万年筆
万年筆との出会いは「家」が文房具店であった・・・という事もありますが、先代が何かと万年筆を使用していたのを良く見ていました。 そして、私自身が使いはじめたのは、やはりお礼状等、手紙を書く機会が増えた社会人になってからでしょうか?もちろん販売業をしておりますので一般の方よりたくさんの商品と出会う機会があり、試す事もできます。 その様な中で最初に印象深く選び、購入したペンは「Stipula I Castoni」のブルーでした。 当時、イタリア系メーカーの商品がたくさん入荷するなか、私の中で「ザ・イタリア」感が発信されていたペンです。 書き心地がどう?というより見た目で選んだ1本でもありました(笑) 現在は弊社オリジナルを含め30本程、所有しておりますが最近の普段使いはナガサワ文具センターのオリジナル万年筆PROSKEを使う頻度が多いです。 インクは「六甲アイランドスカイ」を入れて使用していますが、寒い季節はあたたかみのある色ということで「神戸ボルドー」に入れ替えることも。 兎に角、万年筆は乱筆である私が「少しでも綺麗な文字が書ける道具」としては最高の筆記具です。下手な文字ではありますが「活字」では言い表せない表現が「文字」一つずつに込められ「気持ち」が自然と入ります。 また、私自身インク色はよく変更する方だと思います。 洗浄してからインクを変えるのは少し面倒かとも思いますがその時間が非常に遊びの時間でもあり、私にとっては重要な時間です。 あの方へ送るにはこの色?今日の自分はこんな色? 乱筆であり乱文の私はインク色で個性を出し、表現をさせていただいております。 送付した方から「あの色は何色?」「長澤くんらしいね?」と聞かされる事を楽しみにもしています(笑) これからも「書く文化を広める道具としての万年筆」を普段使いの筆記具として愛用していきたく思います。株式会社ナガサワ文具センター
代表取締役社長 長澤宗弘
代表取締役社長 長澤宗弘