小日向京のひねもす文房具

小日向京のひねもす文房具|第四十六回「万年筆ペン先の字幅を決める時」

万年筆ペン先の字幅を決める時

万年筆のペン先には「F(細字)」「M(中字)」「B(太字)」といった字幅があり、新たな万年筆を選ぼうという時には「どの字幅にするか」と、ひとしきり悩むものです。
そして何本か万年筆を使ううちに「同じFでも、メーカーによってずいぶん線の太さが違うな」と感じ、ついには何本も万年筆を使い比べるうちに「同じメーカーの、同じ万年筆の、同じFでも、微妙な違いがあるのかも知れない」と思うようになります。
そこで新たな万年筆を店頭で選ぶ時には試し書きが欠かせないわけですが、目当ての万年筆がまだ発売前で、現物を手にするまでは選びたくても選べない、あるいは予約しておかなければ在庫がなくなるかも知れない、というケースに直面することも多々あります。

何を言いたいのかといえば、そう……プラチナ万年筆 #3776センチュリー「河口」が、来る2016年7月1日発売なのですよ!
世界限定2500本。はたして店頭に並ぶものはどのくらいあるのか、固唾をのんで待つ日々です。

#3776センチュリー 河口の商品概要はこちらです。

夜明け前、河口湖に浮かぶ富士山をイメージした「ドーンブルー」の軸色。
天冠部に透けて見える富士山の形を模したパーツ、立体文字加工のリング刻印。
そのリングやクリップ、ペン先にゴールドではなく、ロジウムメッキの白銀色を合わせてあるところにハートを射抜かれました。
これはぜひ、手にしたい。
今回の河口で選べるペン先の字幅は、F・M・Bの3種類という。
さて、いずれにするべきか……。

万年筆ペン先の字幅を決める時

上の写真の線は現在小日向の使う#3776センチュリーのペン先比較で、ゴールドのペン先はMとBが、ロジウムメッキはFとMがある状況です。
つまり、
◆ゴールドはFを持っていない
◆ロジウムはBを持っていない
◆Mはゴールドもロジウムも持っている
よって、
◇ロジウムである河口はBにしたらいいのでは?
◇FやMだとペン先がかぶるし。個体差があるのかどうかは知りたいものの。
◇河口の軸に、今あるロジウムFやMのペン先〜首軸部分をはめ替えて使うのもいい。現在Fはブラック、Mはシャルトルブルーだから、河口の軸と合わせても首軸の色がなじむでしょう。
◇そこでロジウムBがどのような線になるかどうかが大切。今あるゴールドBで雰囲気をつかみ、同じ字幅のゴールドMとロジウムMで素材による書き心地の違いを体感することによって、ロジウムBの描線を推察してみよう。
とあれやこれや考えを巡らせて、それがいいそれがいい、とひとり含み笑い。
クックックッ…と試し書きを始めたのでした。丑三つ時あたりが似合いそうな行いです。

万年筆ペン先の字幅を決める時

上の写真の右はロジウムMで、左はゴールドBのペン先で書いたもの。インクはともにパイロットのブルーブラックです。
ペン先の比較は同じインクで比較するのが良いようで、右は多少青みが淡く、左はくっきりと濃く出ているのがわかります。線の太さだけでなく、インクフローや発色の違いも見られるのは効果的です。

小日向はこの試し書きでひと続きの文章を書いており、またえらく乱雑な字ですが、これはF・M・Bくらいの字幅で万年筆を使う自分の主な目的が「速度をつけて、しばらく連続する文字を書く」ことにあるためです。
これよりさらに太字の字幅で検討するとなると、たとえば宛名書きなどに使うことになりそうなので、その場合は住所や名前のような文字で試し書きをします。
また極細字なら手帳に使うでしょうから、試し書きは短いキーワードのような文字にします。
文章を書く時と、住所などを書く時、さらに手帳に書く時を比べると、1文字の大きさ・速度・連続性が変わってくるため、試し書きのさいには実際使う場面に近い状況を作ってみるというわけです。

万年筆ペン先の字幅を決める時

紙もふだん使うもののなかから色々と変えてみます。
#3776センチュリー万年筆については以前にこちらの第三十三回で話題にしましたが、あらためてプラチナ万年筆のペン先Bの「書いていて気分が乗ってくる感じ」はぐいぐいくるな…と高揚してきます。
インクの濃淡や筆記のスピード感を味わう時に、総じて自分は細字寄りを選びがちとなり、国産メーカーの万年筆ならばなおのこと細字に心が向くものの、このペン先Bだけは別!

#3776センチュリーのペン先のゴールドとロジウムの違いは、14金かその上にロジウムメッキを施しているかという違いで、筆感にわずかな差があるのみと言われるもの。しかしこれが「解き放たれるように文字を書けるゴールド、冷静沈着さを保ちながら文字に向かえるロジウム」という感覚で、手元にある同じ字幅Mで比べてみると、紙を駆け抜ける楽しさが倍に広がるように思います。
やはり当初思い立った通りに、河口はまだ体感していないロジウムBにしてみよう! と決めたのでした。

万年筆ペン先の字幅を決める時

上の写真はペン先ゴールドBの#3776 センチュリー シャルトルブルー軸と、その文字です。文字の形がちゃんとしているのかどうかはさておいて、なんだか「入れ込んで」書いているように見えます。
紙の上にペン先を走らせた時に、自分の持ち方とペンポイントが合うかどうか、線の太さはどうか、インクフローはどうか、速度の加減による流れの良さはどうか、というペン先選びの要点は「何かに入れ込んで書くことができそうな」予感を生み出すものです。
#3776 センチュリー 河口のBは、NAGASAWA PenStyle DENに予約した次第。
「順次ペン先が揃うのは7月上旬になりそうです」と、NAGASAWAスタッフの方々の待ち受け態勢も万全。
目にする日を心待ちにしています!

小日向 京(こひなた きょう)

文具ライター。
文字を書くことや文房具について著述している。
『趣味の文具箱』(エイ出版社刊)に「手書き人」「旅は文具を連れて」を連載中。
著書に『考える鉛筆』(アスペクト刊)がある。
「飾り原稿用紙」(あたぼうステーショナリー)の監修など、文具アドバイザーとしても活動している。

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