2024年12月に梅田茶屋町店限定モデルの万年筆「可惜夜(あたらよ)」が、ナガサワ文具センター梅田茶屋町店の万年筆サミットで発売になりました。
2023年に発売された、同万年筆サミットの限定モデルの万年筆「真夜中の灯台」に続く第二弾で、幻想的な世界を再現した「可惜夜」万年筆は長さ約110mのコンパクトなボディに、黒ではない夜を表現した色をキャップと尾栓に、乳白色のような月明かりを表現したボディのコントラストの美しさは、明けてしまうのが惜しくなる夜の世界が込められています。
筆記の際、キャップを尾栓にはめることで全体のバランスが整い、ブルーとホワイトのコントラストは美しい月夜を手の中で楽しめます。
さらに、21金を採用した贅沢なペン先は、最高の筆記体験を提供してくれます。
明けしまうことが惜しい夜「可惜夜」
柿本朝臣人麻呂(柿本人麻呂)が編纂した万葉集「玉匣開巻惜恡夜矣袖可礼而一鴨将寐」(読み人知らず)にも登場する”可惜夜”とは「素敵な夜が明けてしまうことが惜しまれる」という意味を持つことばで、学生時代の試験勉強や、ボクのように締切に追われて「ああ!朝が来てしまう」という意味ではなく、月を見上げながらしみじみと、その美しさに身を委ねていることの幸福感から、明けてしまう夜の名残惜しさを詠んだものです。
そんな「可惜夜」を身近に感じさせてくれるものはないかと思案していたところ、夢枕獏さんの小説「陰陽師」を思い出しました。
時は平安時代の京都を舞台に、陰陽師・安倍晴明と貴族・源博雅が様々な怪奇に立ち向かう物語は、小説では23巻(2023年10月現在)にもおよぶ人気シリーズで、これまでにも、映画やテレビドラマに舞台化もされ、岡野玲子さんの漫画化でさらに多くの人に親しまれるようになりました。
小説「陰陽師」は毎回、安倍晴明の屋敷で二人が簀子(すのこ)の上で、酒を酌み交わす場面から物語は始まります。
安倍晴明と源博雅の淡々とした会話が、ふたりの絆の深さが沁みてきて、多くのファンを魅了しているシーンです。
「なぁ晴明よ」と源博雅が美しい月を見上げて語りはじめ、口数少なく「そうだな」と応える安倍晴明との会話に「可惜夜」の言葉から伝わるイメージがシンクロしました。
実は、作家の夢枕獏さんとは、あるイベント会場でお目にかかったことがあって、他のゲストの方と話していたときに、後ろから聞こえた「そうだね」と柔らかい言葉に振り向いたそこに、かすかな笑みを浮かべた夢枕獏さんがいらっしゃいました。
その日は、深夜までたき火を囲んで、酒を交わして、それでいて誰も大きな声で騒ぐことなく、静かに夜を楽しんでいたことを記憶しています、今にして思えばこの夜こそが「可惜夜」だったと実感しています。
ふたりの「可惜夜」
源博雅「なぁ晴明よ、ナガサワ文具センターで発売している”可惜夜”という美しい筆が気になっているのだが、一緒に見に行ってはくれまいか」
安倍晴明「行くか」
安倍晴明・源博雅「行こう」
そういうことになった。
このふたりが、毛筆ではない金属のペン先を持つ万年筆を手にした時、どんな驚きを見せるのか、またどんな文字(呪)を描くのか?そんな想像がどんどん膨らんでいき、いつの間にか夜が明けてしまいそうです、「可惜夜」は意外に身近かなところにあるのかもしれません。
ナガサワ文具センターオリジナル万年筆「可惜夜」
発売日 2024年12月7日(土曜日)
梅田茶屋町店・万年筆サミット限定モデル
価格 ¥51,700ー(税込)
ペン先:21金
字幅:EF/F/MF/M/B
筆者プロフィール
出雲義和・フリーランスライター
文房具を中心に様々なジャンルで執筆活動を行うほか、テレビやラジオにも出演。様々な視点で文房具の魅力や活用術を発信中。
works:雑誌書籍「趣味の文具箱」「ジブン手帳公式ガイド」「無印良品の文房具。」他、web「WEZZY」「マイナビおすすめナビ(監修)」他