ふだん歩いている時に、景色を丁寧に眺めていればゆっくりとした歩みになり、先を急げば早歩きになり、もうどうにも時間がないと慌てて駆けだしたりするように、文字を書く時にも様々な速度になります。
特に会議や講義のメモなどは、次々に流れ進んでいく話し手の音をできる限り耳でとらえて文字に残すことになるため、その記述もしばしば「全速力」になるものです。また、その時の記述状況に応じて使えるスペースや体勢も変わります。
場面に応じて、どのような文房具を選ぶのが最善なのだろうか?
…なんて考えを巡らせることは、楽しいですよね!
上の冒頭写真は、能率手帳の付属冊子に寄席の落語をメモしたものでした。
落語で使われる言葉には味わい深い表現やなるほどと思わせる知恵が多く、心に引っかかってきた音はその場で書きとめておきたいのでメモが欠かせません。
しかしあからさまにメモを取る様子が人々の視界に入るのは、話し手にも観客にも気になることでしょう。そこでこうした場合に心掛けていることは、以下です。
◆ 座席の肘掛けには肘をのせず、その内側に両腕を格納する。
◆ 肘掛けの内側に肘が入り込んだ状態で書きやすいくらいの大きさの紙面積のものを選ぶ。
◆ 筆記具は、ノック音や筆記音が発生しないものを選ぶ。
◆ また筆記具は、手の中に収まる長さのものを選ぶ。手の上にはみでた軸が、文字を書くたびにくるくる回ってうるさいため。上と考え合わせ、短くなった鉛筆にしている。
◆ 書きながら、限界まで紙面を見ずに話し手のほうへ目を向ける。
◆ 書く手の動きを最小限に抑えた文字の形にする。かつ、あとから判読しやすい形にする。
◆ 1枚書き終えた時、めくる音を最小限に抑えられる紙を選ぶ。
…という点を遂行するために、能率手帳の付属冊子はとても扱いやすく、走りメモ書き道具の定番となりました。上の写真は今年のスケジュール手帳で、能率手帳 普及版(NOLTY 能率手帳1/商品番号1218)のニューレッドです。
昨年までのスケジュール手帳は別のもので、他に能率手帳ゴールドを箇条書きメモを中心に使っていましたが、スケジュール手帳が廃番となってしまったのを機にそちらも能率手帳にシフト。引き続き箇条書きメモにする能率手帳ゴールドと見分けをつけるために普及版のニューレッドにした次第で、その昨年末の手帳選びの流れや手帳の使途は第十六回に書いた通りです。。
能率手帳の裏表紙内側には住所録を兼ねた「Address & Memo」と題する付属冊子が付いていて、
電話番号欄6ページ+住所欄10ページ+横罫ノート欄14ページ=30ページ
で構成されています(中表紙もページ数に含む。用紙28ページ+中表紙前後2ページ)。
このノート欄へ鑑賞メモを書き、ノート欄がいっぱいになると住所欄に及び、それもすっかり書き尽くしてしまうと、能率手帳ゴールドに別途付属している横罫ノート冊子3冊に及ぶこともありますが、このところは「能率手帳 補充ノート/商品番号8902」も重宝にしています。
上は補充ノートを能率手帳 普及版のニューレッドと並べたところ。
「Address & Memo」や能率手帳ゴールドの横罫ノート冊子と同じく中表紙含めた30ページの薄型で、10冊入りです。用紙にはミシン目が付いていて、切り離せるようにもなっています。
ページ厚みの三方塗りは、普及版の基本色・黒のみ。
三方塗りの部分を、補充ノート・普及版のニューレッド・能率手帳ゴールドと比べると、以下の写真のような色みの違いがあります。
いっそ三方塗りを変えて何色か出してもらえると、メモの内容によって分類できるのでより嬉しいなとは思いますが、この補充ノートを別売りにしてくれているだけでありがたいものです。
薄型の冊子は荷物が増えたと感じさせず、快適に持ち運びができてメモの習慣がますます近しくなります。
写真の通り、補充ノートは付属の「Address & Memo」よりもわずかに幅狭。ここが技あり!
左は能率手帳ゴールドの裏表紙内側の「Address & Memo」冊子収納部分で、冊子を入れるとノドぎりぎり。そこへ補充ノートを足すようなことがあっても、すんなり閉じることができるよう幅狭になっているというわけです。
能率手帳ゴールドの付属横罫ノート冊子も、ぜひ今後別売りを検討してもらいたいところです。
上はそれぞれの横罫ノート比較。一見普通の横罫ですが、左の能率手帳ゴールドと右の補充ノートには横罫の途中に切れ目が2ヶ所あり、1行が3分割されていています。
中央の普及版「Address & Memo」の横罫は切れ目が1ヶ所、1行が2分割。
目盛りも、左と右は3分割に5点ずつ×5行おきにある一方、中央の普及版は上下の目盛りはなく、3行おきにのみ点を入れてあります。
このあたり、表にしたりスケジュールの延長としたり、様々に活用できる工夫が凝らされているところに「能率手帳らしい能率性」が光っています。
こちらは補充ノート紙面の寄りです。横罫に切れ目があり、3分割されていることがよくわかるでしょうか。
この切れ目を活用したい時にはスッと現れ、必要ない時には切れ目が気にならない、絶妙な罫線をしています。
…と、一年中魅せられっぱなしになる能率手帳ですが現在8月、これらはお店に置いていないシーズン。しかしもう少し経てば来年の手帳も並びはじめるでしょうから、その頃に能率手帳・補充ノートともども存分に物色することといたしましょう。
メモにおいて「気持ちいい走り」を得るためには筆記具のみならず、紙の力も必要です。
良さそうなものがある時に、それを使うことが知らないうちに続いていく…そんな文房具に出合えると、そこはかとなく嬉しいものですよね。
今日もあれこれ走り書きをしながら、文房具と過ごす時間を楽しみたいと思います。
小日向 京(こひなた きょう)
文具ライター。
文字を書くことや文房具について著述している。
『趣味の文具箱』(エイ出版社刊)に「手書き人」「旅は文具を連れて」を連載中。
著書に『考える鉛筆』(アスペクト刊)がある。
「飾り原稿用紙」(あたぼうステーショナリー)の監修など、文具アドバイザーとしても活動している。