書類に入れておきたい日付印とページ番号も、昨今パソコンで手軽に入力することができるものですが、いまだゴム印やナンバリングでの押印が欠かせません。
なぜなら、書類の文字列の中で飛躍的に目立つからです。
受け取った書類や紙類にも日付をスタンプしておくと、あとから判別の助けになります。
ナンバリングについては以前に第三十五回「シヤチハタ ページナンバースタンプ」で書きました。今回は日付印に触れたいと思います。
上の写真は、シヤチハタの「回転ゴム印エルゴグリップ欧文日付 明朝体4号」です。
作業がはかどりそうなブルーの持ち手とゴム印部分。この持ち手は自転車のハンドルなどにも見られるエルゴグリップで、人間工学(=エルゴノミクス)に基づいた形状と、エラストマー素材を用いた手に吸いつくようなホールド感が極上です。
5連のベルトで印面を組み合わせる回転は回しやすくシャキッと合わせられ、指にインクが付くようなこともありません。回転させる歯車の付いた円盤は、印面との距離が長いグリップ寄りを指で挟むのが良いようです。
シヤチハタの回転ゴム印には「ゴシック体」と「明朝体」があり、ゴシック体のすっきり感も魅力ではあるところ、明朝体の抑揚豊かな線もまたたまらず愛らしく、明朝体の中でも書類の文字や手書き文字の大きさとバランスの良い「4号」を小日向は使っています。
書体の号数は、このシリーズの中で5号が一番小さく、4号、3号、2号、1号と数字が小さくなるにつれ文字は大きくなっていって、初号が最も巨大という。大きいものは、スタンプ自体もちょっとした迫力のある大きさです。
ちなみに製品の形状は異なりますが、先に挙げたページナンバースタンプの文字の大きさは、2号です。
スタンプの回転ゴム一周分をひとつずつ回して捺していくと、上の写真左側のような印影になります。曲がっていますが、この曲がりもまたライブ感の出る良いところで…まっすぐに整った印影にしようという努力はしながらも、結果曲がるという人の手を介した作業ならではの「ぬくもり」を感じます。そしてそのぬくもりが、日付印を目立たせる利点にもつながると思います。
紙によって変わる印影の出方や、インクのにじみ・かすれ具合も見どころです。
写真右側ではクラフト紙の封筒にも捺してみていますが、多少ガサガサとした紙面にのる印影もまた味わい深く。
こちらの日付印には数字以外に「年 月分」もあって、その書体もまた可愛らしいですよね!
冒頭写真から同じスタンプ台のインキは「藍色」です。
シヤチハタのスタンプ台には紫・赤・藍・黒・朱・緑・茶・牡丹・空・黄と10色が揃っており、用途や好みに応じて多彩な使い分けができます。多彩でありながらも、視覚的な区別はしっかりとつけやすいのも特徴です。
舟橋商会の社名で1925(大正14)年に創業したシヤチハタが、最初に作った商品は「万年スタンプ台」。90年以上にもわたるスタンプ台製造の総力が結集された逸品です。
小日向は上の写真のように、書いてある文面の上に日付印を捺すこともあります。これも理由は「そのほうが目立つから」。切手に捺された消印のように、書いた文面の上にちょっとのせるようにして捺すと、「この文章を書いたエリアはこの日付でのこと!」と訴えかけてくれるようで、気に入っています。
出先へ持ち運ぶ時には、ゴム印とスタンプ台をそれぞれ封筒に入れて、ダブルクリップで留めています。入れた封筒には試し捺しもできて、劣化したら新たな封筒に取り替えるだけ。
さあ使おうという時、前に捺した時の日付になっているのを見て「これだけ日が経ったんだな」とか、「まだ昨日のことだったっけ」とかものを思う瞬間もまた、良いものだなと感じます。
この回転感覚と捺し心地は、回転ゴム印ならではのもの。暮らしの一片に、なにげなく加えてみてはいかがでしょう。
小日向 京(こひなた きょう)
文具ライター。
文字を書くことや文房具について著述している。
『趣味の文具箱』(エイ出版社刊)に「手書き人」「旅は文具を連れて」を連載中。
著書に『考える鉛筆』(アスペクト刊)がある。
「飾り原稿用紙」(あたぼうステーショナリー)の監修など、文具アドバイザーとしても活動している。