2024年12月に発売されたKobe INK物語シリーズの87番目にあたる「兵庫パンジー」は、兵庫県兵庫区の花として区民に親しまれているパンジーをモチーフに生まれました。
なぜパンジーなの? と思って、調べてみると、パンジーの花びらの形が兵庫区の「兵」の文字に似ていることから決まったそうで、その発想がユニークであり可愛らしくもあり、ただそれだけのことですが、パンジーの花が好きな私は、この街を身近に感じるようになりました。
魅力溢れる兵庫区
兵庫区といっても他府県に住んでいる人にはピンとこないかもしれませんが、新開地駅と聞くと「あっ!あの辺り」かと、思ってもらえるかもしれません。
関西私鉄大手の阪急電車・阪神電車・山陽電鉄に加えて、鈴蘭台や有馬温泉方面に向かう神戸電鉄・神戸高速線の起点にもなっていて、鉄道会社が複数線乗り入れる駅は全国にもそう多くはなく、生活や観光にとって重要な役割を果たす駅となっています。
ここ、新開地はかつて「東の浅草・西の新開地」と呼ばれるほどの大きな歓楽街でもあり、喜劇王チャップリンがこの街を訊ねて来たことや、映画解説でおなじみの淀川長治さんがここで育ったというおはなしは映画ファンの間では有名なエピソードです。
娯楽の主体が映画からテレビ、そしてインターネットへと移行した現在も、レトロな佇まい映画館や毎日高座が催される寄席もあり、古き良き文化や伝統が現在に受け継がれています。
また、娯楽だけでなく区民の生活を支える場所として、湊川公園の周辺には、青山商店街、マルシン市場、湊川商店街(ハートフルみなとがわ)で構成された「神戸新鮮市場」があり、新鮮な野菜や魚介類などの生鮮食料品のほか衣類雑貨を扱う商店約500店舗が軒を連ねていて、近年では寂れていく商店街が多い中で、今も威勢のかけ声が聞こえてくる活気溢れる商店街がここには残っています。
実は私もこの市場のファンのひとりで、新開地駅で乗り換えるタイミングがあれば必ず足を運んで、商店街の名物になっているサキイカを買って帰るのが習慣になっています。この日も購入の列に並んでいると、ご主人ができたてのサキイカをひとつまみオマケにくれたので、それをかじりながら商店街を歩くのもまた楽しみのひとつになっています。
トンネルの上にある公園
湊川公園は平地よりも高い場所を流れる天井川を埋め立てた跡地に作られていて、交差する道路の上にある、全国でもあまり例のないユニークな環境にあります。
天井川とは、上流から流れてきた砂礫が川底に堆積して浅くなった河川の氾濫から守るために、堤防を高く積み上げる土木作業が繰り返された結果、平地部分よりも高くなった名残です。
そのため公園の下を湊川トンネルが走り、商店や映画館などが地下の隠れ家のように並んでいるのも兵庫区の独特の地形が生み出した特徴で、周辺をぶらり散歩するだけでも観光ガイドブックの表紙を飾る神戸とはひと味違う神戸をたのしめます。
Kobe INK物語「兵庫パンジー」の色に触れる
庶民的な花として知られるパンジーの花は、3色すみれという愛称があるほど花を彩るカラーバリエーションが豊富です。
花言葉も色によってその意味が変わることが有名で、紫の花のパンジーには、その深い色合いから「思慮深い」と、どんな環境で変わらず咲きつづけることから「誠実」との意味が込められています。「兵庫パンジー」のインクは、数あるパンジーの色からこの深い紫が選ばれました。
紫を基調としたKobe INK物語は他にもありますが、色合いは「三宮パンセ」と「布引ラベンダー」の中間のようなイメージです。
今では手に入らない特別限定色「モネバイオレット」を思い起こす色合いでもあり、このインクを使い切ったら、次は「兵庫パンジー」で補完したいと思っています。
「兵庫パンジー」でイラスト
今回、記事のために訪れた兵庫区役所の窓口に「兵庫パンジー」インクで描かれた素敵なイラストが飾られているのを見つけました。
このイラストを描いたのは、兵庫区役所地域協働課で働く小田はる乃さんで、特別アートを勉強していた訳ではありませんが、このインクと出会って、感じたままに描いてくれた作品ということでした。
Kobe INK物語は、文具ファンだけではなく、神戸に住む人、そして神戸ではたらく人たちからも広く深く親しまれていることが、今回の取材でひしひしと伝わってきました。
Kobe INK物語 #87「兵庫パンジー」
2024年12月23日発売
50ml 2,420円(税込)
筆者プロフィール
出雲義和・フリーランスライター
文房具を中心に様々なジャンルで執筆活動を行うほか、テレビやラジオにも出演。様々な視点で文房具の魅力や活用術を発信中。works:雑誌書籍「趣味の文具箱」「ジブン手帳公式ガイド」「無印良品の文房具。」他、web「WEZZY」「マイナビおすすめナビ(監修)」他