文房具の部屋 〜神戸からの手紙〜

コラム NAGASAWA エングレーブ-KOU-

ナガサワ文具センター本店3階フロアの一角にある、大人の隠れ家的な筆記具売り場「DEN」。
こちらのお店の限定万年筆「エングレーブ-KOU-」が発売されたのが、2025年1月のこと、記事を書くにあたり、この万年筆をお借りしようとしたところ、あまりにも売れ行きが早く初回の入荷分は完売してしまい、手元に届いたのがゴールデンウィーク直前になってしまいました。
それほどの人気をあつめる、この万年筆「エングレーブ」は、2011年に「PenStyle-memo/改」として、発売されたものをリファインしたモデルですが、配色やコンバーターの構成などが見直されて、新しく生まれ変わりました。
近年のナガサワ文具センターから発売された限定万年筆は、どちらかといえば明るい配色のジェンダーフリーなモデルが多かったように感じていますが、今回の「エングレーブ-KOU-」は、男性・女性のどちらかをターゲットにした万年筆ではありませんが、初見で見る限り、やや硬派な男性的なイメージを持った万年筆かなと、昭和世代のボクにはそう伝わってきます。
そういう視点で見ると、若い世代には、とても新鮮な印象をうけるかと思いますが、長年万年筆と人生を共にしてきたユーザーには、どこか懐かしさを感じさるモデルといえます。

大きな特徴である、金属ボディの表面に凹凸加工された軸は、手触りの良さと滑り止めの効果を備えていますが、この仕様は、かつて高級嗜好品などに採用されていたローレット加工を思わせます。
以前、文具の展示会イベントで、とあるメーカーさんと小売店さんと話をしていたとき、文具とは関係のないオーディオの話になって、アンプはどこどこのメーカーがよかったとか、スピーカーはあのモデルが憧れだったとか、なんともマニアックな話で大いに盛り上がり「あのさ、レコード盤に針を落として音楽を聴くっていうプロセスは、万年筆にインクを入れて書くときの手間に良く似ているよね」という会話をしたことを覚えています。
そんな、高級オーディオ機器のダイヤルにも採用されていた処理がローレット加工で、いまでもこの凹凸加工を施した機器やデバイス、道具を見ると”高級感が溢れる”といった表現がダイレクトに結びつくのは、やはりボクら昭和の世代のノスタルジックなのかも知れません。
また、オーディオだけでなく、カメラも銀塩時代(フィルム)から愛用している文房具業界人も多くて、デジタルが主流になった現在でも、無骨なデザインでレンズのリングに凹凸加工のあるデジタルカメラを好む、文具雑誌の元編集長や文房具店の社員の方を知っています。
旅行業界の取材では、カメラマンやライターの多くは、SONYやCanonのデジタルカメラを愛用しているのに対して、なぜが文具業界ではOLYMPUS(現在のOM SYSTEMS)のようなメカニカルなデザインを好む人がいるのは、万年筆というアナログな筆記具とカメラ機器との間に共通する魅力があるからでは?とひとり思っています。
つまり「エングレーブ-KOU-」の最大の魅力というのは、無骨さであり古き良きアナログのロマンが詰まった万年筆と呼んでいいと思います。

エングレーブ-KOU-

2025年のオリジナル万年筆「エングレーブ」には「KOU」というネーミングがつきました。
ナガサワ文具センターさんにお聞きしたところ「格子」をイメージしてつけた名前だそうですが、「格子」から受け取る印象というと、古い日本家屋であったり、碁盤の目に代表される京都の街(区画)であったり、なんか神戸っぽくない?と、思ったのですが、それがどうして、神戸にも「碁盤の目」(格子模様)のような街が存在していました。
1868年の明治元年に、神戸港が開港して多くの外国人がこの街に訪れて、初代兵庫県知事となった伊藤博文の手によって、彼らが住む場所が設けられ”居留地”が誕生しました。
このエリアこそ、立派な格子模様に整備された街で、通常であれば、町名は筋(道路)と筋に挟まれた区画を◯◯町と呼んでいますが、”居留地”では筋を挟んで向かい同士が同じ町名となり、海外の習慣にならった街作りが行われたといえるでしょう。
そこから見える、神戸の街づくりは京都とは異なり、海外との交易から発展した神戸らしい特長といえます。

そんなことを思いながら、「エングレーブ-KOU-」と一緒に旧居留地を歩くと、本当にこの街とよく似合う万年筆だということが感じられました。

「エングレーブ-KOU」

発売 2025年1月10日
ペン先 14金
字幅 EF/F/MF/M/B
価格 55,000円(税込)

筆者プロフィール

出雲義和・フリーランスライター

文房具を中心に様々なジャンルで執筆活動を行うほか、テレビやラジオにも出演。様々な視点で文房具の魅力や活用術を発信中。works:雑誌書籍「趣味の文具箱」「ジブン手帳公式ガイド」「無印良品の文房具。」他、web「WEZZY」「マイナビおすすめナビ(監修)」他

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