マーキングなどに使われる三菱ダーマトグラフは、「ダーマト」と呼ばれ愛され続けている三菱鉛筆のロングセラーです。ダーマトグラフの発売は昭和30(1955)年。当初は木軸製だったといい、その後昭和33年頃に現在の紙巻軸になったそうです。
この紙巻軸が、ダーマトグラフのトレードマーク。芯に何周にも巻きつけてある紙には5ミリ幅の切れ目が入っており、芯先が短くなったらその紙を剝くことで芯が繰り出される仕組みです。軸の先から飛び出た糸は、紙を剝く際に軸へ裂け目を作るために使うもの。スティックタイプ包装のガムやキャンディー(ハイチュウのような)を開ける時にビニール紐が付いているところを引っ張って裂く、あの感覚を繰り返しながら芯を出していきます。
紙巻である理由は、芯の成分にワックスが多く、温度変化による収縮から木軸では芯が抜け出してしまうためで、伸び縮みが柔軟な紙が向いているのだそう。
ダーマトグラフには「油性」と「水性」があり、こちらは油性です。どちらも紙以外にガラスや金属、プラスチックにも書くことができますが、油性は布で消し、水性のほうは水で消せるという違いがあります。
ダーマトグラフの独特なテカりのあるなめらかな書き味に魅せられて、また様々な素材に書くことができる点に惹かれて、愛用する人が現在も後をたちません。
たとえば昔よく見た光景に、上のような「フィルム袋にプリント枚数などの指示を書く」という使い方がありました。街の写真店には、白や黄のダーマトグラフが必ず置いてあったものです。もちろん今も置いてあるものの、フィルムを扱う写真店の数が少なくなって、なかなか目にする機会がなくなりました。白のダーマトといえばフィルム写真で使ったな〜と懐かしく思う人も多いことでしょう。
ダーマトグラフの12色、ちゃいろ・あか・ももいろ・だいだいいろ・きいろ・きみどり・しろ・みどり・みずいろ・あいいろ・むらさき・くろを紙に書いたところです。くっきりとした色とあたたかみのある描線が、ダーマトグラフの持ち味。「しろ」は「きみどり」と「みどり」の間に書いていて、白い紙ではこのくらい見えず、その筆跡はひとつ前の写真を参照ください。
書いている時のほろほろとした脂みのある筆感が楽しいダーマトグラフですが、やはりなんといっても待ち遠しいのは紙巻を取る時!
軸側面に目盛りのようについた○を目印に糸を引いて、
その裂け目から剝がしてくるくると紙を取ると、
新たな芯が出てきます。この外し終えた紙がとても愛らしく、小型鉛筆削り器で鉛筆を削ったあとの削りかすのように、しばらく捨てることができなくて机に飾っておいたりしてしまう!
糸は次に紙を剝く時にある程度の長さが必要になるためそのまま温存しますが、書く時にぷらぷらして邪魔なこともあるため、このようにマスキングテープで貼っておくことも一案です。
前述の通り紙だけでなくつるつるした素材にも書けるので、例えばクリアホルダーに見出しやちょっとしたメモを書いておくのにも便利です。
筆記線はティッシュで簡単に拭い取ることができるため、PP素材をホワイトボード的に使えます。手帳のポケットホルダーなどを、消しては書くToDoスペースにしてみるのも良さそうですね。
ダーマトグラフといえば赤や黄色にまず目がいくものですが、水色や黄緑をはじめ藍色や黒など、他の色もとても素敵です。
気になった色から1本ずつ試してみるも良し、一気に12色セットを用意してからその日の気分や用途で使い分けてみるも良し。
日々のマーキングからメモまで、ダーマトグラフに親しみましょう!
小日向 京(こひなた きょう)
文具ライター。
文字を書くことや文房具について著述している。
『趣味の文具箱』(エイ出版社刊)に「手書き人」「旅は文具を連れて」を連載中。
著書に『考える鉛筆』(アスペクト刊)がある。
「飾り原稿用紙」(あたぼうステーショナリー)の監修など、文具アドバイザーとしても活動している。