横浜のデザインテキスタイルブランド「濱文様(はまもんよう)」は、様々な染柄模様の布製品を展開しています。
特になじみ深いのは、日本てぬぐい。売場に並ぶ和の季節感あふれるてぬぐいを、ナガサワ文具センターで目にしたことがあるのではないでしょうか。
小日向も梅田茶屋町店を訪れると、なんだか無性に欲しくなってしまう柄を見つけることが多く、一本また一本とてぬぐいが増えていきます。
その一部が冒頭のてぬぐいたち。写真左側のブックカバー型に折りたたんだ赤青鉛筆柄は、万年筆フェスのイベント時にお会いしたかたからいただきました。その節はありがとうございました!
日本てぬぐいは、綿100%でできた長方形の長い布。寸法は大ざっぱに新品で約90cm×33cmほどあり、洗い続けていくとだいたい83cm×32cmくらいに縮みます。
手を拭ったり頭に巻いたりするてぬぐいが、文房具と何の関係があるのか。
実に関係があるのです。
こうやって机で筆記具トレーにしたり、▽
こうやって折りたたんだところに筆記具を等間隔に並べて、▽
巻いてゆき、▽
ゴムで束ねてペンケースにしたり。▽
その他、冒頭のようにブックカバーにしても良いですし、広げれば文房具を包むのにも使えます。
誰かに文房具を贈る時のラッピングにしても素敵ですよね。
小日向は絶えず文房具とともにてぬぐいを何枚か鞄に入れておき、書きものをする前に手を洗って拭ったり、喫茶店のテーブルなどでも折りたたんだてぬぐいを置いて、そこへ筆記具を並べておいたりするのに使っています。
筆記具をテーブルや机に置く時の音が響かなくて、快適なのです。
また広げたぶんだけ「ここが文房具の待機エリア」と視覚的にわかりやすくなるのも、作業する時などに役立ちます。
てぬぐいは、文房具といつも一緒!
もはや文房具のひとつと言ってもいいのでは? というほどです。文具店に、てぬぐいが売られているのが多いことも、うなづけるというものです。
さて、濱文様のてぬぐいは「捺染(なっせん)」という方法で絵柄が染められています。
日本てぬぐいの染めかたには「捺染」と「注染(ちゅうせん)」とがあり、その大きな違いは「捺染は裏面まで染めが抜かれないので表裏がわかり、注染は裏面まで染めが抜かれる」というものです。写真で見てみましょう。
捺染はこのように裏面が薄くなっています。▽
一方、注染はこのように、裏面も表面と同じ濃さをしています。▽
それでは捺染にする理由は何か。それは、捺染にすることで「細かい模様」まで如実に表現することができるためです。下の写真のような微細な模様は、捺染だからこそできるものです。▽
濱文様の誇る横浜捺染には120年の歴史があり、1859年に横浜港が開港していらい様々な外国の木版技術者が集まったことで技術を取り入れ完成されていったといいます。
濱文様は1948年に捺染工場として創業し、いらいスカーフやハンカチなど多くの捺染布製品を手掛け、1993年に「濱文様」ブランドを立ち上げててぬぐい商品を展開してきました。
てぬぐいというと「和柄ばかりで風流すぎるかな…」と感じるかたもおられるかと思いますが、濱文様は上の写真で示した通り、和柄だけでなく現代的な柄にも果敢に挑戦していて、それが日本てぬぐいと実に良く合う仕上がりとなっています。そのあたりも、様々な描線を綿の布上に再現できるという捺染のなせる技なのでしょう。
もうひとつ、てぬぐいといえば「あの端っこの糸がほつれてくるのはなんなの?!」と思われるかも知れません。
この切りっぱなしが、とても大事!!
長辺の両端を縫製していないため、たたんだ時に端がかさばらず、濡らした時にも乾きが速いのです。昔は下駄の鼻緒が切れると、てぬぐいをピーッと縦に割いて急場の鼻緒代わりにした…という話もあるように、切りっぱなしになっていることで布面の応用も自由自在。
ハンカチにはちょっと長すぎると感じるようなら、半分に切って使っても良いでしょう。
その「端っこのほつれてくる糸」は、洗うたびこまめに切っておくことが大切です。▽
これを繰り返すうちにだんだん端がフリンジ状になって、手になじむてぬぐいへと進化します。
この作業が楽しくて楽しくて……どこかにほつれはないのかっ?! と探してしまうほど。
洗う時、ほつれが発生しているのを見ると「あとで乾いたら切るからね…ぐっふっふ」と嬉しくなってしまいます。
洗うと言えば、てぬぐいは色柄を染めてあるため、洗濯機で他のものと一緒にせず単体で洗うのが得策です。単体で洗うといっても面倒なことはなく、手を洗う時のついでに洗面所で洗ったり、風呂に入る時に洗ったりして、固く絞ってもの掛けにでも吊るしておけば、ほどなくして乾きます。そんな手軽さも良いところです。
捺染は注染ほど盛大に色落ちはしないので、しばらく繰り返し単体で洗って色落ちしていないようなら、洗濯機で他と一緒に洗っても大丈夫です。
と色々心のスタンバイができたところで、濱文様のてぬぐいを文房具とともに味わいましょう。色柄は季節に合わせたり、自分の気分で選んだり。
てぬぐいは、文房具との毎日をますます豊かに彩ってくれることと思います。
小日向 京(こひなた きょう)
文具ライター。
文字を書くことや文房具について著述している。
『趣味の文具箱』(エイ出版社刊)に「手書き人」「旅は文具を連れて」を連載中。
著書に『考える鉛筆』(アスペクト刊)がある。
「飾り原稿用紙」(あたぼうステーショナリー)の監修など、文具アドバイザーとしても活動している。