小日向京のひねもす文房具

小日向京のひねもす文房具|第四十九回「プラチナ万年筆 #3776センチュリー 河口」

プラチナ万年筆 #3776センチュリー 河口

先週はNAGASAWA PenStyle DENへ、プラチナ万年筆 #3776センチュリー 河口のB(太字)を受け取りに行きました。
第四十六回「万年筆ペン先の字幅を決める時」に書いた通り、あれこれ模索した末に字幅をBに決めて予約したもので、待ち遠しかったのなんの。
「入荷しました」と連絡をもらい受け取りに向かう阪急三宮駅からの道のりはもうほとんど小走りで、センター街の人混みのなかを忍者よろしく壁づたいにサササ。
なにしろ河口の実物を見るのも、この時が初めてだったのです。

プラチナ万年筆が富士山の標高から「#3776」と冠した万年筆シリーズをフルモデルチェンジして、新モデル「#3776センチュリー」を発売したのが2011年のこと。その折に「富士五湖シリーズ」と銘打って「本栖」を発表、以降2012年に「精進」、2013年に「西(sai)」、2015年に「山中」と続き、今年2016年にシリーズの最後をしめくくったのがこの「河口」でした。
軸デザインがよくわかる美しい写真など詳細は、プラチナ万年筆の河口ページを御参照ください。

プラチナ万年筆 #3776センチュリー 河口

実物の全景を見た時の第一印象は、「思ったよりも軸がつやつやしている!」。
むしろこれはラメが入っているのか? とまじまじ見入ってしまうのは、「光線彫り」と呼ばれる軸のラインによるもの。湖面に映る夜明けの富士山をイメージした図柄だそうで、このラインの間隔が広い部分、狭い部分、そしてラインのない部分と混在しているために、手にした時「人差し指から親指にかけて、軸がもたれかかるところ」への感触がさらさら&つやつやの反芻となります。
シャリ感があるのに、なめらかな潤いも感じる…という握り心地は、プラチナ万年筆のペン先の筆感そのもの。紙にペン先をすべらせれば「ああ、これがプラチナ万年筆のペン先だなあ」と思い、筆がいっとき止まれば「ああ、プラチナ万年筆のペン先みたいな軸をしているなあ」と思う。握りたくなり、書きたくなる──その至福が延々と続いていくのです。

プラチナ万年筆 #3776センチュリー 河口

夜明け前の空と湖に映る富士山を表した「ドーンブルー」の軸色は、シャルトルブルー軸と並べると上の写真のような違いが。シャルトルブルーが紫がかった青ならば、河口はブルーブラックインクのような青をしています。
これがブルーブラックインク好きには、ぐっとくるのではないでしょうか。
そうなると、入れるインクもブルーブラック一択です。
そこでブルーブラックインク好きの次に起こる悩みは、「どのブルーブラック色にするか」。
小日向も、悩んだ悩んだ。
パーカーやウォーターマン(ミステリアスブルー)は外せないし、ペリカンもいいし、そもそも純正のプラチナ万年筆だって忘れてはいられないわけで。
未だ悩んでいますが、ひとまず手持ちの他のセンチュリー数本に現在入れているパイロットのブルーブラックにしてみました。
なぜなら、同じインクを入れているとペン先の比較がしやすいからです。
ゴールドのBと、ロジウムのBはどのように違うか。FやMになるとどのように描線が変わるのか。そうしたことが「インクは同じ条件」にすると、より明確に見えてきます。
そして、それらを持ち歩いていると、どれかがインク切れになっても他のコンバーター(あるいはカートリッジ)を差し替えれば急場をしのげるので、とても助かります。
少し明るめでコバルトブルーがかったパイロットのブルーブラックは、自然光にかざしたドーンブルー色とも良く似合っています。

プラチナ万年筆 #3776センチュリー 河口

夜の白熱灯や蛍光灯、昼間の窓辺や夕暮れ時など、ここ数日で様々な光の下で書いてみましたが、この軸に一番ぴったりくるのは「早朝の自然光」と感じます。明るい曇りの日なら、日中も良し。
その判断基準は天冠部に閉じ込められている富士山の形をしたモチーフで、これが生活照明の下ではなかなか見えづらいところ、早朝や明るい曇りの自然光なら気持ち良く透けて見え、「天冠の富士山が見えたら、その光は書き時!」という一種のセンサー的役割になっています。

そして、楽しみにしていたロジウムメッキのペン先Bは、字幅FやMでゴールドペン先と比較した時と同じように、「硬さとともになめらかさもある」ものでした。
文字で「彡」や「有」の斜め線のような右上→左下へと右手ではらう動きの時に「うわっ、気持ちいいぞ〜!」と実感します。左手なら、「人」や「文」のような左上→右下のはらいに〝くる〟のでは。

新たな万年筆が加わると、自分の手になじませるためのペン先作りが一から始まります。
ペン先を手になじませるだけではなく、その手を「ペン先のほうになじませる」ことにも気を配りながら、たくさん書いて、時に機嫌良く、時に怒りにうちふるえたり、涙をこらえたりすることがあっても、とにかく書いていくうちに、気づけば「自分だけの一本」になっている……その時をこの河口で迎える日を楽しみにしながら、日々文章に向かいたいと思います。

小日向 京(こひなた きょう)

文具ライター。
文字を書くことや文房具について著述している。
『趣味の文具箱』(エイ出版社刊)に「手書き人」「旅は文具を連れて」を連載中。
著書に『考える鉛筆』(アスペクト刊)がある。
「飾り原稿用紙」(あたぼうステーショナリー)の監修など、文具アドバイザーとしても活動している。

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