小日向京のひねもす文房具

小日向京のひねもす文房具|第五十七回「香港で見た文房具」

第五十七回「香港で見た文房具」

文房具好きは、えてして旅行好きのようです。
だって、ノートや手帳に書く用事が一気に増えるのですから。
その書き込みが、好きな旅先の土地の名前や出来事で埋められていくのも嬉しいものですよね。
「いいや。旅は移動がおっくうだから嫌いだよ」という文房具好きがいたならば、その人はきっとノートや紙の上を筆記具で旅しているのでしょう。

エイ出版社の刊行する文房具情報誌『趣味の文具箱』で小日向は連載記事「旅は文具を連れて」を書いている通り、文具と旅は密接な関係にあると感じています。
ただ「旅行好き」と人が言う時、その意味合いにはそれぞれに異なる側面もあり、
◆ 非日常の中に身を置けるから好き
◆ 物語の主人公気分になれるから好き
◆ ふだんできない体験をできるから好き
◆ なんかもう家事とかやらなくていいから好き
◆ いろんな乗り物に乗れるから好き
◆ 限られた時間配分の中で効率の良い旅程を組み、それを達成するという挑戦が好き
◆ 旅先にしかない店でふだん見ない文房具を買えるから好き
…と推察し得る理由を並べてみると、「そうそう」と同意するものや「いやー自分にはそれはないな」と思うものに分かれ、「旅行好き」が「旅行好き」と完全な意思疎通をはかるのは難しいのではないかとも感じます。

小日向の場合、「日常と非日常の差異をどれほどなくすか」ということに関心があり、「(日常とされる)日々の生活を非日常的な感覚で過ごし」「(非日常とされる)旅行を日常のように過ごす」ことにつとめています。
これを文房具で行動に示すならば、
◇ 日用品の買い出しリストを羽根ペンで書き
◇ 旅先の一室で肥後守を手に鉛筆を削る
とたとえられるでしょうか。
日常(とされるもの)の中にちょっとした非日常を混ぜ込んでみると、非日常(とされるもの)の中でも居心地の良い状態を作りやすくなるように思えるのです。そして日々のあちらこちらで新たな発見が生まれてくるように感じます。

さて先週は香港へ行きました。これまでに香港へはかなりの頻度で出掛けており、その目的の主軸が「良い文字を見つけること」です。
こちらのTwitter小日向アカウントで書きつないだ通り、香港には魅惑の道路文字や看板文字、手書き文字があるのです。「あるのです」というか、私がそれらを好きだということなんでしょう。自分が今後どのような手書き文字を表すか? どんな筆記具で走り書きをするべきか? そうしたことが、香港で目にする様々な文字から参考になっています。

そんななか、もちろん文具店めぐりにも執心。
道を歩いていると、交差点の向こうに「文具」の看板が!▽

第五十七回「香港で見た文房具」

そんな時には、すかさず立ち寄ります。
この事務系文具店では、第五十五回に書いた中島重久堂の「NJK」マークを見つけ!▽

第五十七回「香港で見た文房具」

こちらはトンボ鉛筆の「ippo! Wシャープナー」でした。
蓋の「えんぴつ用」「いろえんぴつ用」の表記は日本語のまま。

そして「CASTELL DOCUMENT」なる、ファーバーカステルの赤青鉛筆などというものがあって!▽

第五十七回「香港で見た文房具」

カステル9000にも、赤青鉛筆があるのですね……感涙。
また何より一番驚いたのが、ちょっと様子の違う三菱鉛筆9800鉛筆を目にしたことでした。▽

第五十七回「香港で見た文房具」

…なんだか高級感があふれていませんか? 紙の1ダースパッケージは同じですが、缶入りの9800鉛筆なんて日本で見たことがないし。
それに硬度も日本では2H・H・F・HB・B・2Bの6種のはずです。
文具店の店主に訊いたらなんと、こちらでは20硬度揃っているのだそうで、まるでHi-uniのような役どころでした。
第五十七回「香港で見た文房具」

缶蓋を開けるとこの通り様々な硬度がずらり。日本ではちょっと地味な立ち位置にある9800鉛筆が、海の向こうではこんなに格好いいことになっていたのですね。
あらかじめ芯先を削ってある削り口が、愛らしいです。
そして天冠部に塗りがある!▽

第五十七回「香港で見た文房具」

硬度表記も刻印されています。
日本のものと並べると、この通り。▽

第五十七回「香港で見た文房具」

日本の9800鉛筆が素っ気なさすぎる……。
店で、鞄の中からこの日本の9800鉛筆を取り出して、「うわ〜」と目を白黒させながら見比べていた小日向を店主は嬉しそうに眺め、
「こっちの9800は、日本のモデルより高級感がありますね。人気ですよ」
と余裕の発言。なんだかくやしいぞ!

そうしていくつか購入することにしたのですが。
店主に「この日本の9800、もうすっかり短くなっちゃってますけど……参考にお持ちになりますか?」とはにかみながら申し出たら、
「唔要。(要らない)」
だって。すっかりしてやられたわい!!

店主と笑顔で別れ店をあとにして歩きながら、他国からナガサワ文具センターに足を運ぶ人たちにも、こんな楽しい気持ちが渦巻いているのだろうな…と思いました。
その後の香港では、ホテルに戻ると原稿書きという「超現実」が待ち構えており、上のかっこいい三菱鉛筆9800鉛筆で飾り原稿用紙に文字を書きなぐった次第です。

旅先へ持ち出す文具や、その文具使いについても、またあらためてこちらに書きたく思います。
日ごろのちょっとした外出も、いわば「旅」。自分だけの道程を、ノートや手帳に日々書き連ねてまいりましょう。

小日向 京(こひなた きょう)

文具ライター。
文字を書くことや文房具について著述している。
『趣味の文具箱』(エイ出版社刊)に「手書き人」「旅は文具を連れて」を連載中。
著書に『考える鉛筆』(アスペクト刊)がある。
「飾り原稿用紙」(あたぼうステーショナリー)の監修など、文具アドバイザーとしても活動している。

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