小日向京のひねもす文房具|第六回「中屋万年筆」

写真1

ナガサワ文具センターの売場ショーケースの中で、ひときわ凛とした和の空気を放つ万年筆を目にしたことがありませんか。
万年筆って、日本古来の筆記具だったかしら? と思うほどに、漆がしっくりくる軸のデザイン。クリップ付きのもの以外に、クリップなしのものもあって、漆塗りの葉巻のような、小刀のような、大和魂が着火されるような──それが、中屋万年筆の製品です。

中屋万年筆は、1999(平成11)年に創設されたプラチナ万年筆の一銘柄。1924(大正13)年に万年筆の製造販売を始めた当時、プラチナ万年筆は「中屋製作所」という社名でした。その旧社名から名を冠して、万年筆の軸の削り出しから漆塗り、ペン先調整まで、長年培われてきた職人技術を伝承してゆくことをコンセプトに製品展開が行われています。
その軸もペン先もカスタマイズは自由自在。ユーザーの筆記データを元に、手になじむ万年筆調整を施してもらえます。

まず特筆すべきはその軸です。中屋の万年筆には輪島漆塗りに加えて蒔絵、ブライヤー(地中海沿岸地方原産の希少木)などあらゆる種類の軸が用意されていますが、ここでは主要製品の漆溜塗(ためぬり)モデルを話題にしましょう。
溜塗とは、漆の重ね塗りで、本塗りした上から生漆を重ねることで下地が表に浮かんでくる仕上げを指します。
このような姿です。▽

写真 2

写真は「碧溜」。エボナイト軸に漆溜塗が施され、十角軸の角やキャップねじの周辺に、碧色がふわりと浮かび上がっています。美しすぎてぐうの音も出ないとはこのことか……。
そしてこの溜塗軸を手にすると、人差し指・親指・中指で握るつややかなグリップ感のみならず、軸を抱え込む人差し指〜親指にかけての肌にもしっとりとした漆の感触が伝わり、漆塗りにやさしく抱きしめられているような心地になります。
目に美しく、手に落ち着き、全身に至福が広がる。
この碧溜は、どこか抹茶味の和菓子を連想させるところにも思いが募ります。

キャップのネジは、1本のネジに4本の溝を切ってある「4条ネジ」というもの。
通常の1本のネジに1本の溝が切ってある「1条ネジ」と比べて、4倍の速さでネジを巻き上げられるといいます。
確かにキャップの開閉が速い。こうしたエボナイトの成形は、熟練した轆轤(ろくろ)職人による技術の賜物です。

写真のペン先は、プラチナ万年筆が#3776 センチュリー「山中」でも展開した、14金の「中軟」という中字の字幅のひとつ。
首軸側からペンポイントに向けて厚みを増す通常のペン先に比べて、ペンポイントの先まで薄くのばしてあり、軟らかなしなりを生む書き味が特徴です。

写真 3

上の写真は中軟ペン先×Kobe INK物語 ウルラピスインクでリテロ・スムースの用紙に書きました。気持ち良すぎて、天にも昇りそう。それと同時に、しゅっとよく切れる刃を振るうような身の引き締まる心地になります。文字もはしゃいでいるようですね。
このペン先の薄い「軟」ものには細軟と中軟があり、ふだん硬い筆感を好む人は「軟らかいのは苦手」という印象を持たれるかも知れませんが、この軟はたんに「硬くないという意味での軟らかい」ではありません。
人は文字を書く時に一定の筆圧だけで書くことはなく、例えば斜めの線をはらう時や、まっすぐな線で止める時などに、他とは違う力を加えています。力を加えたり、力を抜いたりを繰り返しているわけで、その文字から文字へと流れてゆく連綿が、この軟ペン先を使うことによってさらに鮮やかなものになります。
かく言う私もどちらかというと「硬い筆感好き」で、だからこそプラチナ万年筆のペン先を大いに好んでおり、軟ものじゃなくてもいいよ? なんて思っていたのですが、この筆感なら話は別。
ああ、今年の梅田茶屋町店での万年筆フェスで#3776 センチュリー 山中の中軟を逃したことが口惜しい……。

上掲写真の中屋万年筆・碧溜は「シガー 十角」と「シガー十角ツイスト」というモデル。違いは十角線がまっすぐか、ねじれているかという点と、まっすぐの十角よりも、ねじれた十角ツイストのほうが軸が太めであるという点です。ともに同じ中軟ペン先を装着してありますが、軸が変わるだけで書き味もぐっと変わります。
体感的には、軸の細いほうが中軟のしなりをより感じられるように思います。それは、軸が細いぶん文字を書く時に手をよく回し動かすことになり、太いと少しの動きでペン先を移動させられるため、力の入り具合も変わることでしなりにも変化が生まれるのだろうという感覚です。

後者の十角ツイストは『趣味の文具箱 vol.35』の拙筆記事「旅は文具を連れて」19ページでも紹介しました。
また、中屋万年筆の詳細がまとめられた記事は『趣味の文具箱 vol.31』9〜19ページに「中屋万年筆の真髄」として特集されています。
この記事は情報量も読み応えも抜群!

そして来る2015年9月25日(金)〜27日(日)、神戸三宮のNAGASAWA PenStyle DENで中屋万年筆のオーダーメイド万年筆フェアが行われます。
中屋万年筆のペンドクター・吉田紳一さんがペン先から軸まわりまで、ひとりひとりの手に合った万年筆を用意してくれる貴重な機会です。ひとり2本まで無料ペン先調整してもらえるペンクリニックも同時開催されます。
ふだん店頭では見られない軸に出会えることも必至。
カスタマイズされた自分だけの中屋万年筆を手に、文字を綴る歓びを体感してみるのはいかがでしょうか。

今回紹介した商品はナガサワ文具センター公式オンラインショップでお求めいただけます。
「中屋万年筆」

小日向 京(こひなた きょう)

文具ライター。

文字を書くことや文房具について著述している。

『趣味の文具箱』(エイ出版社刊)に「手書き人」「旅は文具を連れて」を連載中。

著書に『考える鉛筆』(アスペクト刊)がある。

「飾り原稿用紙」(あたぼうステーショナリー)の監修など、文具アドバイザーとしても活動している。

小日向京のひねもす文房具



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