うららかな陽気となったこの頃でも、朝晩ちょっと冷え込んだり、でもこれは冬の寒さに比べたら大したことはないな…と思ったり、昼間は汗ばむことさえあったり、暖かいのやら寒いのやらと感じるものです。
そうこうするうちに「なんだか毎日眠い…」となりますよね。
それが春! 眠い眠い!
そんな時にはよろよろと筆記する手をしばし休めて、スタンプを押してみるのもどうでしょう。
引いて駄目なら押してみよ。特にまとまった紙に通し番号を押していく「ナンバリングマシン」は、連続してスタンプを押す楽しみを味わえるため、ちょっとした気分転換にもうってつけです。
そこで今回は、シヤチハタの「ページナンバースタンプ」の話をいたします。
ナンバリングマシンといえば、金属製のものが主流でした。番号は自動巻きで、押すたびに「ガチャン」という独特な金属音が響き、次の番号に繰り上がっていくという作りです。何桁にもわたる番号を押せたり、2枚や3枚押すごとに番号が繰り上がっていったりとモデルごとに機能も満載で、それは大変に味わい深い名機ですが、その作りと重厚感だけに価格もなかなか高額で手を出しづらいものでした。
そんななか「単機能でもいいから、気軽にパッとナンバリングしたい」という声に応えて作られたものが、シヤチハタのページナンバースタンプでした。
発売は2014年のこと。…えっ、そんな最近だったの? 金属製のナンバリングは大昔からあるのに…と思ってしまいますよね。これこそが「今までにありそうでなかった」品だったのです。
書体はゴシック体と明朝体の2種類で、数字の大きさは2号です。この2号はなかなか大ぶりなサイズなのですが、この大きさが視認性の高さを生む大切なところとなっています。
数字は最大3桁と少なめに設定してあり、配布書類や紙類の通し番号を付けるのには3桁ありば足りるであろうと想定されています。そして複雑な機能も色々ばっさりと割愛。
本体はプラスチック製・印面はゴム製で軽くて扱いやすく、全体に四角ばっていて脇に置く時にもほどよく自立します。
インキは耐水性で長期保存に向く油性顔料系。パッケージには小サイズの黒インキが付属していますが、別売りのXスタンパー顔料系補充インキも使えるため、小日向はゴシック体には藍色を、明朝体には緑色を用意しました。
スライド(印面を囲む透明部分)を押し上げてロックし、インキ補充スポンジシートが付いた部品(上の写真左)を取り出します。インキは10滴含ませると約300回押せるのだそう。
スポンジシートをセットしたら、押したいひとつ手前の番号に合わせ(1から押したいなら「0」にしておく)、本体脇の解除ボタンを押してスライドを伸ばしたところで押す準備は完了です。
さてその番号の合わせ方について。
左右両側にあるツマミで番号を回します。左ツマミで一番左の1桁目を動かし、右ツマミで真ん中の2桁目と一番右の3桁目を動かす作りになっています。右ツマミは引っぱり出せるようになっており、左ツマミと同じ状態で2桁目が、引っぱり出すと3桁目が動きます。腕時計のツマミの原理です。
金属製のナンバリングではこの番号を動かす時に「長い棒」を使ってカツカツと操作しますが、このツマミはパッと回せてとっても便利。
ひとつ注意すべきことは、「3桁目は自動巻き上げではない」という点です。
1→99までは押すたび番号が巻き上がりますが、99→100、199→200、299→300と3桁の数字が切り替わる時には、右ツマミを引っぱり数字を合わせることを忘れないようにしましょう。
小日向は、調子よくポンポン押すあまり、これをけっこう忘れることが多いです…。▽
200と押すべきところ、3桁目を回すのを忘れて100になってしまった例。
間違えて押すと、同じところに2回押せて、それはそれで嬉しいのですが(笑)
3桁目をスムーズに変えるには、たとえば99→100に移る場合、
《99を押し終わった→3桁目の番号を「1」に繰り上げる→そして押すと100になる》
という手順です。とにかく下2桁の番号が99になったら3桁目を回せばOK! 私も今後忘れないようにしたいと思います。
小日向は書類や原稿用紙へのナンバリングのほか、ノートにもこのようにしてページ番号をつけるためにページナンバースタンプを使っています。ここでこの2号の文字の大きさと、別に用意していた藍色・緑色のインキ色のおかげで、余白ではなく書いた文面の上に押しても「視認性が高く」「元に書いた文章も読める」という点が非常に気に入っている次第です。
ノートへのナンバリングは、書いたあとに押しても、最初に押してからそこをよけて書いても。▽
こうしてスタンプをよけた文字が取り囲んでいる様子にも、ぐっときますよね!
2年前に出たばかりの新製品と言えど、なんだかとっても古典的で、スタンプの押し心地に懐かしささえ覚えます。終始手にインクがつくことなくクリーンに使えるのも嬉しいところ。
心もち「パッカン♪」というのに近いスタンプ音が、寝ぼけた頭もしゃっきりと目覚めさせてくれます。
何より「あ、番号をスタンプしようかな」と思い立った時に、億劫になることなどなく、すぐに手をのばしたくなるのが一番に優れた点だなと感じます。
機能はどんどんてんこもりにしていこうという製品開発志向のある昨今、「シンプルで使いやすいものとは何か」というところに焦点を合わせて作られたこのシヤチハタ・ページナンバースタンプに、大切なことを教えられる気持ちになります。
小日向 京(こひなた きょう)
文具ライター。
文字を書くことや文房具について著述している。
『趣味の文具箱』(エイ出版社刊)に「手書き人」「旅は文具を連れて」を連載中。
著書に『考える鉛筆』(アスペクト刊)がある。
「飾り原稿用紙」(あたぼうステーショナリー)の監修など、文具アドバイザーとしても活動している。