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小日向京のひねもす文房具|第五十二回「筆記具の名入れ」

第五十二回「筆記具の名入れ」

贈り物や自分の仕事道具に刻んでおきたい、筆記具の名入れ。
上の写真はパイロットの多機能筆記具「2+1 EVOLT(エボルト)」ライトブルーで、回転式で繰り出す黒・赤ボールペン+シャープペンシルが1本におさまっています。
軸色も豊富! 軸の色柄によってあらゆる場面や人物に合うため、小日向はこちらに名入れしたものをよくプレゼントに選んでいます。接客業に就く人へブラウン系を贈った時には「見た目が控えめで、かつチープ感がなく、ガンガン使えて、職場でふいに置き忘れても名前が入っているから戻ってくる!」と好評でした。

以前に第三十四回「鉛筆の名入れ」でその魅力に触れましたが、文字が刻印された状態は、木の鉛筆とその他の素材の筆記具とではかなり雰囲気が異なります。
そして鉛筆に名入れする場合と上のような筆記具に名入れする場合とでは、使うさなかでの味わい深さもまた変わってきます。
◆ 鉛筆の名入れは、削って短くなる軸の変化とともに文字を味わえる
◆ 上のような筆記具の名入れは、軸の長さが変わらないという確固たる空間の中で文字を味わえる
という違いがあり、「なんですか、そのくらい」と思われるかも知れませんが、同時進行しながら見比べてみると、名入れにたいする印象がずいぶんと変わるものです。

小日向は鉛筆の場合はひらがなやカタカナの箔押し刻印一択ですが、筆記具への名入れ書体に「漢字(ひらがなやカタカナを含む)」があると、それを選びます。なぜなら欧文文字よりも一目で判読しやすい記号をしているからです。
それは「日本語がわかるから」なのでしょうか。
たとえば初めて行く土地での電車の降りる駅や、見慣れない言語で書かれた標識を識別するという場面では、「この文字はどう読み、何を意味するのか」ということよりも「この文字の形状は自分の目的場所の文字の形状と合致しているか」ということをまず頼りに判断するものです。そんな時に、ちょっと似ていてパッと判読しづらいものはあるけれど(「さ」と「き」とか、「ホ」と「木」とか、「日」と「目」とか)、その文字が視覚的に訴えかけてくる個性、いわば「キャラの立っているさま」には目を見張るものがあります。

駅名文字でいうと、神戸近辺で電車に乗っている時に「いい形だな」と思わず駅名標に見入ってしまうのが「夙川」。しばらくの年月、駅に停車するたびその形を愛でるにとどめていましたが、この「夙」の字にはどのような謂れがあるのだろうと字典を紐解くと、「丮(音読み:ケキ/人が手に物を持つ姿を示す)」という字に「タ」を加えた合字とあり、「朝早くから夕遅くまで仕事を務める」ことから転じて「早朝、夙(つと)に」を意味するものだとか。
阪急電車の駅名標は漢字よりもひらがなのほうが文字表記が大きいため、夙川よりも「しゅくがわ」が目立ちますが、こちらも「し」の左下カーブに始まって「わ」の右上カーブで終わるというまとまりのある形。
またJR神戸線でぐっとくるのは「垂水」で、座席に座ってなんとなくうつらうつら…と瞼が閉じそうになってきた時のような「垂」の字と、うわ〜もう眠くてダメだよ〜(>_<)という表情にも見える「水」の字との調和が絶妙です。 そうなってくると、漢字文化圏外から日本に訪れる観光客が数々の文字に魅せられる気持ちもわかるもので、〝天麩羅〟の看板に『クール!』と反応する彼らの高揚には深く同意します。 『この興味深いロゴは何なのか?』と訊かれて指さす先に〝まぜるな危険〟と書いてあった時など、なぜそこに反応を?!…と思ったりすることも…笑。 そうしたことを考え合わせると、一方で名入れには「欧文にする意義」もあると考えられます。もしも判読性が悪くなるように感じられても、アルファベットが醸し出す空気感というものはほどよく洗練されており、遠目で見ると繊細なワンポイントのようでいて、近づけば文字情報を伝えてくれる…という利点を持っています。 特に舶来ものの筆記具にはしっくりとなじみ、デザインの調和を保つようにさえ思え、「よく見ないとわからない個人情報」としても有利です。 「小日向 京」よりも「Kohinata Kyo」にする時、それが筆記体ならなおのこと似合う筆記具はあるだろうし、「えっ細部はなんだ?」とあらためて視認する必要があるところに、淡く浮かぶ間接照明のような効果が生まれます。 さあ、これという筆記具が決まったら、どのような名入れを施しましょうか。 自分の文字の好みや演出に合わせて、色々と策をめぐらせてみましょう。 2016年8月6日から31日まで、ナガサワ文具センターでは「種類限定 筆記具名入れ無料キャンペーン」を開催中です。 1,080円以上の筆記具のなかから種類限定で、通常800円+税の名入れが期間中無料になるというもので、対象商品は店舗によって異なるのだそう。 開催店舗は、 ナガサワ文具センター本店* ナガサワ文具センタープレンティ店 ナガサワ文具センターアスピア明石店 ナガサワ文具センターn→スクールショップ NAGASAWA PenStyle-DEN* NAGASAWAさんちか店* NAGASAWA梅田茶屋町店 NAGASAWA神戸煉瓦倉庫店 La letter de Kobe(神戸国際会館SOL 地下2階) の9店舗となり、末尾に「*」のある3店舗は「即日名入れお渡し可能」とのこと。 詳細は各店舗のスタッフにお尋ねください! 第五十二回「筆記具の名入れ」

小日向 京(こひなた きょう)

文具ライター。
文字を書くことや文房具について著述している。
『趣味の文具箱』(エイ出版社刊)に「手書き人」「旅は文具を連れて」を連載中。
著書に『考える鉛筆』(アスペクト刊)がある。
「飾り原稿用紙」(あたぼうステーショナリー)の監修など、文具アドバイザーとしても活動している。

小日向京のひねもす文房具


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