小日向京のひねもす文房具

小日向京のひねもす文房具|第七十一回「URUSHI JAPANのパイロット キャップレス フェルモ」

第七十一回「URUSHI JAPANのパイロット キャップレス フェルモ」

2016年5月13日に発売された、「ナガサワ文具センター創立134周年記念万年筆・URUSHI JAPAN」。パイロットのキャップレス フェルモをベースに、漆黒と朱の漆塗りをまとった特別な逸品は、発売前から大きな話題を呼びました。
そのURUSHI JAPANの詳細についてはこちらの第三十九回で紹介した通りです。

その発売から半年あまりの日々を経た今月師走初め、NAGASAWA梅田茶屋町店での万年筆サミットで売場ショーケースを眺めていたところ、URUSHI JAPANの漆黒軸がさりげなく置かれているのを目にしました。
まだわずかに店頭に売られているのか──。
『ひねもす文房具の第三十九回を書いていた時には、どちらの軸色にするか迷いに迷って決められず、そのままになってしまっていたなあ。もうないだろうと半ば諦めていたのに。運命というものがあるのなら、URUSHI JAPANはこのあとも私を待っていてくれているのではないか。』
ショーケースのガラスへ鼻がくっつきそうになるほど肉迫しながら、そう思いました。

万年筆サミットで「パイロット ペンクリニック」をなさっていたペンドクター・土田氏に、「URUSHI JAPANに見入ってしまいました。回転繰り出し式のキャップレスって素敵ですね!」とパイロットつながりで申し上げたら、土田さんはゆっくりと頷かれ。
「よくぞ仰ってくださいました。キャップレスの魅力は尽きないものです。キャップレスにはその回転繰り出し式の『キャップレス フェルモ』、レギュラーサイズの『キャップレス』、そして細軸で軽量な『キャップレス デシモ』の3種がありまして」
と土田さんのお話は始まり、
「フェルモは初代キャップレスを引き継ぐ回転繰り出し式です。そしてキャップレスを機能的なノブノック式にしたあと、皆さまからの〝細く軽く〟の声に応えて開発したものがアルミ軸のデシモでした。キャップレスとフェルモの軸は真鍮ベースなのです。そしてデシモを発表した翌年には、再び初代に近しいモデルを加えることとなり、回転繰り出し式のフェルモが発売となったのでした」
……口をついて滔々と話し続ける姿はもはや、伝承民話の語り部のよう。

小日向はこれまでキャップレス デシモをただ1本持つのみで、キャップレスは「私には大きくて軸太かな?」と思い、キャップレス フェルモは「URUSHI JAPANの回転ノブのように表面がつるっとしているのがいいな」と思い、それらの違いをさほど認識せずにいました。
それが、土田さんのお話を伺って軸太ノック式の「キャップレス」を選び使ってみたところ。
なるほどデシモのアルミ軸とは重さが違う。その重みと軸太感で、無意識に力を込めることなく小さなペン先を扱いやすいのだな…と感じ、すっかり感心してしまったのでした。

そして後日、NAGASAWA梅田茶屋町店を再訪。
まっすぐショーケースへ進むと、URUSHI JAPANの漆黒が先日と同じ姿で鎮座していました。
山田店長の「よろしかったら試し書きなさってみますか?」のささやきで、試筆開始。
すると在庫棚を確認した山田店長、「朱軸も1本だけありました!」と仰る。
えっ、えっ、朱軸もあるのですか?! と小日向盆踊り状態。
折しもその日は、店内にてペンドクター・川口明弘氏のペンクリニックを開催中で。
試し書きをしつつ「字幅によって印象が変わりますよね」「EFは定番フェルモにはない字幅なんですよ…」といった山田店長の味つけが加わるなか、
「あったんですねぇ…朱軸…」
との右手背後の声に振り返ると、いつの間にかそこには感慨深げにURUSHI JAPANを見つめる竹内室長が。
もう、オールスターキャスト。
かくしてめでたく朱軸を購入したのでした。

第七十一回「URUSHI JAPANのパイロット キャップレス フェルモ」

インクは他の主要万年筆に入れているのと同じパイロットのブルーブラックをカートリッジで入れ、桐箱には戻さずそのままキップレザーの3本差しLへ。
いらい、いたるところで取り出しては紙へ走らせています。
何はさておき感動するのが、ペンケースから取り出した時の漆の感触。キャップレスシリーズでは稀有なゴールドコンビは、ペン先までもがゴールド仕上げです。
その姿を愛でながら、指で回転ノブを軽くつまみ、くるりと回す所作のエレガントさといったら!! 茶道で茶を点てる時、茶筅を構える精神統一のような心を抱き、記述に入れます。
そして回転ノブの中で部品が軽く「ぐるん」という感触も極上。音もなく回り、スッとペン先が現れるさまは、何度でも繰り返し味わいたくなります。

第七十一回「URUSHI JAPANのパイロット キャップレス フェルモ」

新幹線の車中でも、URUSHI JAPANでの記述を楽しみました。
キャップレスは、その名の通り「キャップがない」ところが移動中にもキャップを落としたり開閉の手間を要したりすることがなく、すっきり快適。
尻軸のノブを回転させてペン先を出し、紙へ走らせる……ごらんこの流れの良さよ、美しさよ。
まあ、車内で私のことなど誰も見てないんですが。
なら見ないがいいよ、ひとりで楽しむから…くっくっく! と、またたく間に過ぎる2時間あまりでした。

街はすっかりクリスマス。まもなくサンタクロースがやってきます。
皆さまは自分へのプレゼントはもう決まりましたか?
私は……今年は、ちょっとたくさん用意しすぎてしまったようです。

小日向 京(こひなた きょう)

文具ライター。
文字を書くことや文房具について著述している。
『趣味の文具箱』(エイ出版社刊)に「手書き人」「旅は文具を連れて」を連載中。
著書に『考える鉛筆』(アスペクト刊)がある。
「飾り原稿用紙」(あたぼうステーショナリー)の監修など、文具アドバイザーとしても活動している。

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