先週の第九十一回で紹介した平井木工挽物所のボールペンに続き、今週は万年筆について書きます。
木工職人の平井守さんが一本ずつ手作りで製作する自然素材のペンは、書きものを心躍る時間にしてくれます。
そのあらましはボールペンの回に記しましたが、万年筆にもまたさらなる極上のひとときがあり、大変に印象的なものです。
冒頭写真は右から、
◆ 花梨の瘤(こぶ)
◆ 楓の瘤
◆ ビーフウッド
の軸で、いずれも14金ペン先・ペンレストとペンシース付きです。
表面には漆塗りが施されています。
これら3点を化粧箱から取り出し、寄ったところを順に見ていきましょう。
《花梨の瘤》
カリンといえば果実の花梨を思い起こすものの、そちらのバラ科の木ではなく、木材として使われる花梨はマメ科の品種なのだといいます。マメ科の花梨は高密度で硬いところが特徴です。
さてこの「瘤」というもの。木は基本的にまっすぐ伸びていくところ、時おり横へパール状に丸くふくらんで成長するものがあり、その部分を「瘤」と呼ぶそうです。
まっすぐ育った規則的な木目に比べて、瘤のある木目は複雑に入りくんでおり、そこに「一点もの」の個性が生まれます。
次に挙げる楓も、同じく瘤が特徴です。
《楓の瘤》
キャップや軸に、渦のような木目と瘤が見られますね。それはまるで、人の心のうねりのようです。
じっと眺めていると、自分のこれまでのことや現在、これから向かうべきところについて思いを馳せるものが、この木目にはあります。
《ビーフウッド》
そして、「これはいったい?」という名のビーフウッド。…牛肉木?!
こちらはオーストラリア原産の木材で、牛肉の霜降り模様のような模様から名付けられたそうです。霜降りのようでもあり、毛並みのようでもあり、なんとも味わい深い木目ですよね。
これらの万年筆キャップはネジ式で、ネジ部分は金属製となっており、キャップ内側のネジも金属のため、開いたキャップは尻軸に挿さず脇に置いて筆記することになります。
万年筆インクはヨーロッパタイプで、コンバーターも付属します。神戸インクも気軽に入れられる!
木材それぞれの印象に合ったインク色を選ぶのが、ますます楽しくなります。
また先週のボールペン製品にも付属しているものが一部ありましたが、特筆すべきは1本挿しのペンケースです。こちらは「万年筆ふくさ 正絹西陣織『華市松』」という逸品。
製造元は滋賀県にある袱紗工房「和奏」で、日本の思いやりや優しさを示す文化を大切にした製品作りをコンセプトにしているといいます。絹100%の布地の感触はしっとりと手になじみ、平井木工挽物所の美しい軸を優しく強く守ってくれます。
そして万年筆の書き心地は極上。14金ペン先のなめらかかつキレ味のある筆感が、手肌に触れる木軸の感触を際立たせてくれます。
写真のようなノートにもぴったりですが、和紙や薄紙の便箋にも書いてみたくなるところです。
Kobe INK物語新色の#64 住吉山手ジェイドグリーンは、《花梨の瘤》軸に合わせてみました。
そんな平井木工挽物所の製品が、今週末の2017年5月27・28日(土日)に梅田茶屋町店へ一堂に集まります。開催時間は両日ともに10時〜18時で、木工職人の平井守さんもいらっしゃいます(途中休憩あり)。
この絶好の機会に、様々な美しい製品を手に取られてみてはいかがでしょうか。
自分の心に寄り添う一本とめぐり合いましょう!
小日向 京(こひなた きょう)
文具ライター。
文字を書くことや文房具について著述している。
『趣味の文具箱』(エイ出版社刊)に「手書き人」「旅は文具を連れて」を連載中。
著書に『考える鉛筆』(アスペクト刊)がある。
「飾り原稿用紙」(あたぼうステーショナリー)の監修など、文具アドバイザーとしても活動している。