鉛筆は、削り口の形によって書き心地が著しく変化する筆記具です。
短い削り口、長い削り口、その中間くらい…とおおまかに分けた時、どの長さが好きでしょうか。また、芯の尖り具合、丸まり具合はどのくらいが好みでしょうか。この2点だけでも、人によって意見は様々にあることでしょう。
そんななか、多くの人々の心をとらえる削り口を生む鉛筆削り器が、カール事務器のエンゼル5です。
2011年の発売以来、それまでのハンドル手回し式鉛筆削り器による「削り口の美」の歴史を塗り替えた逸品と言って良いエンゼル5。見た目はオーソドックスな形状ですが、鉛筆を挿してハンドルを回すとその回し心地の軽快さに「おやっ」と思い、内部の刃が入念に研ぎ上げられていることがハンドルを通じて伝わってきます。そしてほどなくスカーッとハンドルの感触が軽くなると、鉛筆が削りきった合図。鉛筆を抜き、その削り口を見れば「これは…」と見惚れることに違いありません。
だってこの美しさなのですから!!
心持ち弓なりにカーブする木軸部分。そこから自然な流れで芯へとつながり、あたかも木軸と芯がはじめから同じ素材であるかのような一体感。この削り口を子どもの頃に目の当たりにしていたなら、
「お外にあるあの木の真ん中にも、芯があるんだなあ」
と思い、
「あんなに大きな木だと、削っても大きな大きな鉛筆になって持てないから、あの木は鉛筆にならずにお外にいるのね」
と、ひとり納得したことでしょう。いや納得するなって話ですが。
せっかくだから、子どもの私の言い分をもう少し聞いてみることにします。
大人小日向「じゃあ、この鉛筆はちっちゃな木なの?」
子ども小日向「そうなの。同じくらいの木がいっぱいある〝鉛筆の森〟から来るの」
大人小日向「葉っぱはどうなってる?」
子ども小日向「こんな黒い色の葉っぱ」
大人小日向「えー…」
子ども小日向「だからお外の木は、削るとおっきな緑色の鉛筆になるの!」
大人小日向「じゃ紅葉なら赤鉛筆ってわけか…くっ、うまいこと思いつきおって」
子ども小日向「色鉛筆の森、楽しそう。見たい〜」
大人小日向「そりゃ私も見たい!」
…そして、「エンゼル5を持って色鉛筆の森を探しに行こう」となりました。
さてこのエンゼル5には「ロイヤル」と「プレミアム」の2タイプがあり、違いは「芯先調整機能の有無」で、ロイヤルには芯先の尖り具合を約0.5mmと約0.9mmに切り替えられるダイヤルがあります。削り比べてみます。
左の0.5mmのほうが、先端までビシッと尖っていますね。
筆跡も、それぞれの削りたての芯先で書いています。だいたいこのくらい、線の太さに違いがあります。
この尖りきった0.5mmも思わずシャープな線を書き込んでいくことに執着してしまうほど気持ちいい尖り具合なのですが、今はギンギンに尖ってない芯で書きはじめたい…という時には、ハンドル回転部のダイヤルを右側に回して0.9mmのほうで削ります。
ここで確認。まだ削られていないまっさらの鉛筆は、このエンゼル5でいったい何回転ハンドルを回すと削り終わるでしょうか。
トンボ鉛筆MONOで試してみると、約20回転でした。
また、すでに削った鉛筆で木軸にかかるくらいまで芯を使い切ると、そこからエンゼル5で尖らせるまでに6〜10回転です。
小日向は特に色鉛筆の場合など「芯は丸まっているくらいで、むしろ木軸のほうを削って芯を出したい」という時には、この回転数を目安にして「その数回手前」で削り終えるようにしています。これを「半削り」と呼んでいます。
エンゼル5の削り口をさらに美しく仕上げるためにも、削ったあとにはふわりとティッシュでぬぐいます。すると削り口の表面に残った細かい削りかすがすっきり取れて、書きはじめに起こりがちな粉落ちもありません。心なしか気持ちも引き締まりますので、ぜひこちらもお試しを。
削るたびに楽しく、気分がきりりと引き締まるエンゼル5で、しばらく経ってからのさらなる楽しみは、引き出しにたまった削りかすを出すことです。この削りかすはもちろん捨てるも良し、ガラス瓶に入れてしばらく愛でるも良しですが、引き出しの隅の跡が「型押し」された削りかすができた時は絶景ですよね!
子どもの頃に「わっ、なんだか引き出しが削りかすであふれてきたな…」と思って引き出し、ごみ箱にバサッと放った削りかすが、引き出し内部の形でゴミ箱の中に出現した時の捨てる惜しさといったらなかったものです。
実はその光景も今回写真におさめたのですが、写真にするとどうも生々しく…これは実物を目にして、ライブ感を味わいたいところです。
ああ、鉛筆を削るって楽しい。
そんな気持ちを満喫できるエンゼル5は、カール事務器が「丈夫で長持ちする道具を使うことこそが本当のエコロジーである」という考えのもと生み出した製品です。
日々使う道具が、使い手よりも作り手の都合で生産されるようになったのではないか?
低価格や大量生産ばかりに向いて「もの作り」の良さを忘れてはいないか?
そうした出発点から、日本製であることに徹し、板金製の頑丈なボディーと特殊鋼の切れ味冴える刃、そして美しい削り口を作る鉛筆削り器を作り上げました。
丈夫で長持ちするだけでなく、ハンドルは三角錐形状で握りやすくなっていたり、鉛筆を挟むチャック部はゴム素材にして軸に傷がつかないようにしたりするなど、細かな配慮も行き届いています。
机に一台。この優れた鉛筆削り器で、鉛筆を削る喜びを、鉛筆で書く心地良さを存分に味わいましょう。
小日向 京(こひなた きょう)
文具ライター。
文字を書くことや文房具について著述している。
『趣味の文具箱』(エイ出版社刊)に「手書き人」「旅は文具を連れて」を連載中。
著書に『考える鉛筆』(アスペクト刊)がある。
「飾り原稿用紙」(あたぼうステーショナリー)の監修など、文具アドバイザーとしても活動している。