小日向京のひねもす文房具

小日向京のひねもす文房具|第百七回「パイロット フリクションいろえんぴつ」

小日向京のひねもす文房具|第百七回「パイロット フリクションいろえんぴつ」

こすると消えるゲルインキボールペンを筆頭に圧倒的支持を誇る、パイロットのフリクションシリーズに色鉛筆が加わったのは2013年12月のことでした。
塗り色がはみ出したり色を変えたくなったりしても手軽に消すことができ、消しかすが出ないためどこでもクリーンに色鉛筆を使え、インク線の下書きにするならばドライヤーで熱風をかざすと描線が消える…と、その活用は多彩。
全12色がケース入りになったセットと、1本ずつのバラで発売されています。
セットは12本で1,000円+税、バラは1本100円+税と、12色セットのほうが2本分お買い得価格となっています。

小日向京のひねもす文房具|第百七回「パイロット フリクションいろえんぴつ」

セットのケース色は上の水色の他に、ピンクもあり。パッケージの可愛らしさや、色鉛筆でなく「いろえんぴつ」と表記する点、またケース色の「おとこのこ/おんなのこ」風な選択肢から、この製品が子ども向けに作られたことがうかがい知れます。
色鉛筆軸に名入れスペースがあるところも子ども仕様。
しかしこれは大人だからこそ一気に12色買いしたくなる! ケースにおさまるすっきりとした外観は、写真の下にあるシステム手帳バイブルサイズにも近しいもの。「きもちいいほど」大人向けでもあるのです。

小日向京のひねもす文房具|第百七回「パイロット フリクションいろえんぴつ」

12色の色みは、写真の通りです。一番左の「きいろ」やその次の「うすだいだい」、右から4番目の「きみどり」など、ほとんど色名文字が見えていませんが、そのままの状態にしています。色名の文字表記については、冒頭写真の色鉛筆軸も御参照ください。
ここにも記しますと左から、
きいろ・うすだいだい・だいだいいろ・あか・ももいろ・むらさき・あお・みずいろ・きみどり・みどり・ちゃいろ・くろ
です。

とにかく美しいのが、尻軸の消去用ラバーです。鉛筆の尻軸消しゴムのように作ってあるところにグッときますよね。そして何よりこの半透明感。うっとりと眺めてしまいます。

芯の書き味は硬く、文字を書こうとすると絶えず筆圧をかけがちになりますが、力を込めて色を濃く出そうとするよりも、重ね塗りをしたほうが効率的に濃く仕上がります。
先だって惜しまれつつ一部の色が廃番となった名品・三菱鉛筆 硬筆色鉛筆 No.7700を彷彿させる筆感が。紙の凹凸を使い、芯をなすりつけて書く動きにぴったりです。
そして、ところどころで筆圧をかけることが気持ちいいです。そのあたり、芯が折れにくいという安心感を抱くのでしょう。

芯材は、フリクションインキとワックス、保護材でできています。尻軸に付いたエラストマー樹脂の消去用ラバーで塗色をこすると熱を帯びて、インキが透明化する(=消える)という構造です。
完全消色温度は65度前後、復色温度は-10度前後、完全復色温度は-20度前後とのこと。-10度〜-20度以下の環境下に置かれる機会はないとは言えず、描線が「消えたわけではない」ことは念頭に置いて使いましょう。逆もまた然りです。小日向は以前、フリクションで書いた筆跡の付箋をディスプレイの隅に貼り、その付近に熱々のコーヒーを入れたマグカップを置いたら、湯気で描線が一部消えはじめ、待って待って!…ということがありました。

私の使途は文章へのマーキングが主で、赤青鉛筆より「消す可能性の高いマーキング」にフリクションいろえんぴつを選びます。マーキングには傍線を引いたり四角で囲んだりするよりも、文字の上を軽くギザギザっと塗りつぶしてしまうことがほとんど。これが淡い色でもじんわりと目立って、大変好調です。

こすると消えるフリクションは、消せる機能をきっかけに「書く機会」を増やしてくれました。これまでに抱きがちだった「間違えたくない」「無駄なことは書きたくない」「限られた空間に情報をおさめたい」といった思いが立ち止まらせていた書きたい気持ちを、自由に解き放ってくれたのです。
どんどん書いて、間違っていたら消し、また書き足せるという解放感から、結果書いたものが「消したくないこと」に満ちあふれていたとしたら──それこそがフリクション究極の醍醐味なのでは、と思いつつ手にするのが楽しみになる筆記具です。

小日向 京(こひなた きょう)

文具ライター。
文字を書くことや文房具について著述している。
『趣味の文具箱』(エイ出版社刊)に「手書き人」「旅は文具を連れて」を連載中。
著書に『考える鉛筆』(アスペクト刊)がある。
「飾り原稿用紙」(あたぼうステーショナリー)の監修など、文具アドバイザーとしても活動している。

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