小日向京のひねもす文房具

小日向京のひねもす文房具|第十九回「万年筆の太字と細字」

万年筆の太字と細字

万年筆を選ぶ時、ペン先の字幅は太くするか細くするか。
これは軸の形・素材や入れるインク色を考えることなどと密接にかかわりあう検討項目です。
また、描線の太い細いだけでなく、ペン先の素材はもとよりペンポイントの形状にも様々あり、書き分けられる線は多岐にわたります。

軟らかなしなりがあって、とめ・はね・はらいが表れるもの。
横線は細く、縦線は太く引けるもの。
ペンポイントが巨大で、インクがたっぷりと出てくるもの。

…などなどその線の表現力には、たんに太い細いだけでは語り尽くせないものがあり、そこも万年筆の魅力のひとつであるわけですが、ここでは大きく「書いた線が太い/細い」に分けて話を進めていきたいと思います。

「私は万年筆は太字と決めている」
「私は細字のなかから選びます」
というかたもおられることでしょう。初志貫徹、一途なサムライのようで素敵。小日向はといえば頭のなかを行ったり来たりで、
「太字と細字とで、ペンポイントの大きさがこんなに違っていて、なおかつ同じ値段なら、ペンポイントの大きい太字のほうが材料費的に〝自分が得〟しているのではないか?」
と考えたり、
「いや、あんな細いペン先に切り割りを入れるという匠の技なのだから、技的には細字のほうが得をしているのじゃないか?」
と思ったり。
そのようなわけで、場合に応じてどちらも好んでいます。

そんなのただの得したい基準じゃないか!
と言われた時の弁解も兼ねて、太字と細字の「それぞれいいなと感じるところや使い途」について思うところを以下に挙げます。

万年筆の太字と細字

《太字のここが魅力》
◆まろやかでコクのある書き味
 →あたたかく、やさしく、おおらかな気持ちになれる
◆ゆっくりと一画一画丁寧に書きたくなる
 →心が整う感覚が生まれる
◆文字がはっきり見えて、暗い場所でも視認性が高い
 →筆記時・閲覧時に照明が足りない時などにも向く
◆紙の上のインクが乾いた時にあらわれるインクの濃淡が綺麗
 →眺めていて飽きることがない
◆薄い紙に太字でインクを含ませると紙が波打つ
 →文字が生命を宿ったように思えて嬉しい!
◆それが乾くと紙をめくる時にガサガサいう音に気分が盛り上がる
 →そのめくり音を聴く目的で太字にすることも……

といった印象で、ふだん自分だけが目にする記述や、封筒の宛名書きなどに使います。
メッセージカードにも、たとえば上の写真のように文様の刷られた面に書くと、その部分をはじいて表情のある線を描くのが味わい深いものです。
続いて細字のほうは。

万年筆の太字と細字

《細字のここが魅力》
◆紙の上で刀を振るうようなキレのある書き味
 →頭が冴えて、目も冴える
◆筆記速度をつけて文字を連綿する時の快適な筆運び
 →小回りが利いてスピーディーに書ける
◆限られたスペースにたくさん文字を書き込める
 →手帳やはがきにこまごま書くのに向く
◆線が細いので、紙に書いたインクの乾きが早い
 →急いでいる時に乾きを待たなくて良し
◆インクは少しずつ消費されていくので、インクタンクの減りが遅い
 →インク補充する頻度が少なくて済む

上の写真の通り、文章書きに細字を選ぶのは、思考が冴える効果をねらっていることと、速度をつけた筆記で文字を書きやすいことと、インクが長持ちすることからです。しかし、ノート記述でもそうですが、書いているその時々で、身の置かれる状況は様々ですよね。急いでいても太字に勇気づけられたり、眠いけれど何か書いておきたいこともあったり。ちょっとのんびりした心持ちで今後の仕事の戦略を練りたい…という場面もあるかも知れません。
そんな状況+自分のその時の気分で太字と細字を使い分けてみるのも、書きもの時間がいっそう色濃くなることでしょう。

ときに来る2015年12月28日(月)、エイ出版社・趣味の文具箱編集部が万年筆の魅力をあますところなく紹介する本『万年筆のすべて』が発売となります。
表紙はこちらです▽

万年筆の太字と細字

2004年の『趣味の文具箱』創刊から11年、これまでに刊行した36号のなかから記事を選りすぐり、最新情報ともども再編集した内容とのこと。価格は税込1,296円(本体1,200円)です。
初めて万年筆を買う人にも、すでに万年筆世界にどっぷり浸っている人にも、万年筆の選び方から使い方、そして味わい方まで俯瞰できる構成となっています。
小日向もペン先やインクについて、一部記事を書きました。
年末年始の万年筆生活のお供に、お読みいただけますと幸いです。

小日向 京(こひなた きょう)

文具ライター。
文字を書くことや文房具について著述している。
『趣味の文具箱』(エイ出版社刊)に「手書き人」「旅は文具を連れて」を連載中。
著書に『考える鉛筆』(アスペクト刊)がある。
「飾り原稿用紙」(あたぼうステーショナリー)の監修など、文具アドバイザーとしても活動している。

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