早いもので一年の終わりが近づいてまいりました。
年賀状書きのラストスパートやお正月に向けた色々な準備に追われる今週、合間をみてぜひ行っておきたいことが「文房具の大掃除」です。
ふだん過ごす場所や住まいなど身の回りを掃除し、清々しい心で新年を迎えようという時、文房具もベストな状態に整えておくことはいわば「思考の玄関」を綺麗にすることになります。
綺麗な玄関には福が来る! 来年の文房具生活をさらなる充実したものにするためにも、ひとつ気合いを入れて挑んでみましょう。
とはいえ気合いを入れるといっても、年末の大掃除時間を文房具ばかりに費やすと、他のことが何もできなくなってしまいます。
ここはあっさりと、要所を押さえて。短時間でもちょっと行っておくだけで、ずいぶん迎春気分が変わってくるな…という2点を挙げたいと思います。
《道具箱の中を見直す》
一年の間に何度も文房具が出入りする道具箱。ここへ新たに買ったものが加わったり、古いものが埋没したり。蓋が閉まらないくらい詰め込んでしまう場面も、こと慌ただしい時期にはあったりします。
◆中身をすべて出す→「要るもの・要らないもの」に分類する→要るものだけを箱の中へ戻す
というシンプルな工程で見直すことになりますが、ここで問題となるのは「要らないもの」のボーダーライン。これが難しいのですよね!
たとえば「小さくなった消しゴム」や、「短くなった鉛筆」など。道具としては役目を終えようとしているものの、観賞物としては手放したくないという。
「う〜ん、要らない。でも要る!」と道具箱に戻すうち、結局は要らないものがほとんどなくて、道具箱が全然見直されてないっスよ…ということが小日向などしょっちゅうです。
あなたが要ると判断した「それ」は、道具として要るのですか?
と厳しく自問自答し、「そうじゃないけど、愛らしいから…」というものは心を鬼にして捨てるのが一番良いことではあるものの、そこにも踏み切れない時のために、「要らないけれど、取っておきたい道具箱」を別個に設けます。
これを、小日向は「博物館行き」と呼んでいます。
その箱の大きさは、自己都合で決めましょう。この箱の中身が自分の文房具博物館なのだなあ…と思い込んでみることで、意外と「これはわたくしの博物館には相応しくない所蔵物である。捨て。」なんて思い切れたりすることもあったりします。
通常の道具箱も、博物館箱も、いずれも文房具はしまう前に拭いて磨きます。鉛筆やカッターナイフなどは刃を折って新しくしておくと、いっそう新鮮な心地になれます。
《万年筆を分類し、洗浄して拭く》
この一年、どんな万年筆やインクを使い、どんな書きものを楽しんだのか振り返りながら、手持ちの万年筆をすべて並べ、見直してみましょう。
これは至福の時間で、もはや大掃除が年末義務であるという概念を忘れさせてくれるものです。
それだけに家人から咎められることのないよう、見た目はてきぱきと、心はゆったりと行うのが肝要。
◆パーツを外し、水洗いをして拭き、軸をやわらかい布などで磨く→すぐに使うものと保管するものに分ける
というあらましで、すっきりと綺麗にしていきます。
インクボトルも、蓋の内側や瓶口についたインクを、濡らしたティッシュなどで拭き取っておきましょう。
万年筆の洗浄の仕方は、こちらのナガサワ文具センターサイト内の「万年筆のお手入れ・洗浄方法」や、エイ出版社・趣味の文具箱編集部による本『万年筆のすべて』p73「吸入機構のクリーニング」に示されている通りです。
これまでに買った様々な万年筆をすべて目にすることで、「そういえば来年は久しぶりにこれにインクを入れて使ってみようかな」と思い立つことなどあるかも知れません。
それが古い古い一本だったとしても、手入れをしていればまた使い始めることをできるのが万年筆の嬉しいところです。
新年に使う万年筆を決めたら、ちょっとした正月飾りをしてみるのもまた一興。
机の上に飾って、厳かな気持ちで元日に「書き初め」を味わうのも良いものです。
ゆく年くる年。文房具を心ゆくまで楽しんだこの一年に感謝しながら、新しい一年にもまた願いを込めて過ごしましょう。
小日向 京(こひなた きょう)
文具ライター。
文字を書くことや文房具について著述している。
『趣味の文具箱』(エイ出版社刊)に「手書き人」「旅は文具を連れて」を連載中。
著書に『考える鉛筆』(アスペクト刊)がある。
「飾り原稿用紙」(あたぼうステーショナリー)の監修など、文具アドバイザーとしても活動している。