小日向京のひねもす文房具|第四十回「ハン六のスットカケール」

ハン六のスットカケール

ゴールデンウィークは過去の思い出となり、いつもの日々にも慣れてきた5月半ば。
快晴に恵まれれば「でも平日だし…今日こんなに晴れなくても」と思い、雨が降れば「もうすぐ梅雨なんだから今降らなくっても…」と思い、ところで今度の祝日はいつなんだろうかと手帳を開いてみれば「えーっ7月18日の海の日まで祝日がないの?!」と身もだえる。
そんなふさぎ込みがちなこの時季にこそ、宛名スケールの出番です。

「…どう関係があるの。」
と思われますか。わかります。
年賀状ははるか前に終わり、暑中見舞いにもまだ早い。
しかし思い出してもみれば「その渦中」の時、いっぺんにこんな色々あると宛名書きもままならず慌ててしまい、せっかくここで太字の万年筆でも出してその書き味を満喫する場面だったのに…と口惜しくなるのが例年のこと。
そうした用事が手薄になった今だからこそ、来る時のために牙を研いでおく…それが得策ではないでしょうか。

この「スットカケール」は、葉書の宛名を「スッと書ける」スケールです。
商品名がすごく覚えやすい!
いま一度、上の冒頭写真に戻っていただきますと、パッケージ裏(写真左側)に注目すべき点が。
「上の穴の下あたりに〝SAILOR〟と書いてあるけど、これってセーラー万年筆のこと?」
──そうなのです。スットカケールは私たちになじみ深い、あのセーラー万年筆の商品として売られてもいるのでした。

それでは、セーラー万年筆も販売しているこのスットカケールはいったいどこが作っているのか? というと、同じくパッケージ裏の一番下に記載されている「HAN-ROKU CO.,LTD.」がその会社名で、滋賀県大津市浜大津に本社のある印鑑・印刷専門店「ハン六」によるものです。

ハン六のスットカケール

ハン六は、創業1858(安政5)年。初代・松室六兵衞が近江大津にて印判業を創業、屋号は「繁緑堂(はんろくどう)」。初代・松室六兵衞は京都御所で「御布告(おふれ/今の官報)」用の版木を彫る職人だったといいます。その初代が「印〝判〟屋〝六〟兵衞」と「商売〝繁〟盛」「松の常〝緑〟」とをかけ合わせて、屋号を「繁緑堂」と号したそうです。
創業当初から、命名には並々ならぬ気合いを感じさせられます。
二代目・松室六兵衞は絵も描き、その「大津繪」を用いた一筆箋がハン六のオリジナル製品として販売されているそうです。

そしてスットカケールは、1990年前後に発売を始めたというロングセラー。
さっそく葉書に当ててみましょう。

ハン六のスットカケール

スケールの裏面にはわずかな凹みがついていて、葉書がピタッとおさまります。
左右両側に定規の目盛りがあるのが、宛名スケール以外にもちょっとしたものを測るのに役立ちそうです。
この官製はがきの場合、郵便番号欄は元々枠が設けてあるのでスケールを当てる前後に書くとして、住所を書くためのスットカケールの枠が、実に良い位置にきていることがわかります。
そして宛名書き最大の決め手である「送り先の名前欄」には、名前の文字数に応じて3〜5文字+様(殿)1文字分のガイド線が引かれています。

一般的なものは冒頭の商品パッケージに例があるため、ここは一気に文字数が色々複雑なものを書いてみます。
送る相手は、NAGASAWA梅田茶屋町店。
送り主は、先日神戸煉瓦倉庫店で2日店員をしたこともあり、煉瓦倉庫から小日向 京で。

ハン六のスットカケール

まず、書く住所や名前の文字数を見て「どこで改行するか」「どの配分で書くか」を検討してから宛名書きにかかります。

◆ 一番右の「大阪市北区茶屋町」は右の文字数通りに書き、番地の数字は2文字分をハイフン短めで配置しました。
◆ 住所2行目は文字数が多く、アルファベットも混在。これは「MARUZEN」と「ジュンク堂書店」がそれぞれひとかたまりになっているように見せるべく、「ジュン」のあたりが中央にくるように書きました。最後に「2階」と書くためのスペースを残します。
◆ 真ん中の「NAGASAWA」は、「4」とある名前4文字の場合の線に沿って、アルファベットを少し縦長ぎみに。
◆ 次の「梅田茶屋町店」は少し下げ、左の「5」の線の1本+空間で1文字になるように、真四角めに書きました。
◆ 左の送り主住所は、3行で書いたほうが良さそうな長さです。そこで少し幅狭を心掛け、番地を2行目の空間に浮かぶように配置。
◆ 住所3行目は、カタカナは平たく、漢字は縦長めに。
◆ 名前は「4」の線に合わせ、小日向と京の間は空けました。

こうした位置調整が、たとえ文字数がスケールのガイド線の通りにいかなくても、線の切れ目を活用しながら目算できるのはとても書きやすくて便利です。
そしてスットカケールは、スットカケール自体がしっかりとしたプレート状なのに薄手で、枠の段差を気にすることなく書き進められるのも実に良いところです。

書く順番は、右手の場合「左端→右端」が、特に太字の万年筆の場合はインクの乾きを気にすることなく書けて良いようです。
それは気にしなくていいのなら、「送る相手の名前→送り主の名前→送り主の住所→送る相手の住所」の順に書くことも一案でしょう。

ハン六のスットカケール

スケールを外すとこのように。
いつも住所も名前も気ままに書き進め、あとから「こんなはずでは…」となってしまう小日向ですが、全体にすっくと立った宛名を書くことができました。

葉書サイズの白い紙にスットカケールを当てて練習用に書いてみたり、いっそノートの空間を埋めるように書き連ねたり。最近休ませてしまっていたかな…という万年筆を出してみるのも一興で、そうこうするうち、ちょっとあの人に葉書を送ってみようかな…となりそうです。
ポストに見つける思わぬ便りは、その喜びも格別なもの。
スットカケールで、季節を問わず一筆したためることにいたしましょう。
宛名書きが楽しすぎて、裏面へ何も書かずに投函しないようくれぐれも御注意を!

小日向 京(こひなた きょう)

文具ライター。
文字を書くことや文房具について著述している。
『趣味の文具箱』(エイ出版社刊)に「手書き人」「旅は文具を連れて」を連載中。
著書に『考える鉛筆』(アスペクト刊)がある。
「飾り原稿用紙」(あたぼうステーショナリー)の監修など、文具アドバイザーとしても活動している。

小日向京のひねもす文房具




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ハン六のスットカケール