空気も凍える寒い朝に道々の草木が白く凍るような光景を「霜冴ゆる」と呼びます。
フリーランスのライターになってから、冬の季節になると東北地方の山深い場所にある1軒宿に、リフレッシュと身体のメンテナンスを兼ねて、1週間ほど滞在して湯治を嗜むようになりました。
例年、積雪は人の丈を大きく超え、多い時には積雪5メートル以上になることもあるこの地方では、昼夜を問わず雪が降り続き、滞在中一歩も宿から出られない日もあります。
それでも、数日に1日程度、雪が止む日があって、外へ出てみると降り積もったばかりの雪が太陽に光を反射してキラキラと輝く光景と出会いました。
都会で生活している自分には、まるで別世界に迷い込んだような感覚に陥り、これまでの当たり前だと思っていたことが、まるで嘘だったように感じました。
宿に戻り、言葉では表現しきれない光景をありったけの語彙をかき集めて、この体験をノートに記したことをいまでも覚えています。
旅から帰ってきたある日、早朝の散歩に出かけた時、近くの公園の芝生や道端の草木が輝く“霜冴ゆる“風景に出会い、あの雪深い山中で体験した時の感動が、こんなにも身近にあることに気付けました。
それは、体験を通じて自分と語り合い表現をしたことで、スケールこそ違っても、あの日の記憶が再生したからかもしれません。
ペンショー会場限定販売の万年筆
「霜冴ゆる」と名付けられた、ナガサワ文具センターオリジナル万年筆が、2024年10月に台南ペンショーを皮切りに、各地の会場限定販売モデルとして発売になりました。
昨年、2023年に発売された、ペンショー限定「葉漏れ日」万年筆は日本だけでなく海内でも高い好評を得て、会期中に完売してしまう人気ぶりでした。その第二弾として登場した「霜冴ゆる」万年筆は、昨年よりも販売会場が拡大され、購入できるチャンスが増えました。
2024年の会場となったペンショーは、次の通りです。
台南ペンショー(台湾)、2024年10月19日〜20日
東京インターナショナルペンショー(日本)、2024年11月2日〜4日
マドリッドペンショー(スペイン)、2024年11月15日〜17日
ソウルペンショー(韓国)、2024年11月16日
神戸ペンショー(日本)、2024年11月23日〜24日
この記事が公開されて時にはすでに完売しているかもしれませんが、ナガサワ文具センターでは、様々なスタイルでオリジナル万年筆を作り販売しています。
ナガサワ文具センターオリジナル万年筆「霜冴ゆる」
「霜冴ゆる」を初めて手にした時、脳裏に浮かんだのは「雪より白い万年筆」といったフレーズでした。ひらひらと、掌の上に舞い落ちた雪が、積もるまもなく、あっという間に溶けてしまう、そんな儚い雪を思い起こさせます。
それは、ただ白に彩られた万年筆だからではなく、淡い軸の向こうの側にある、ほのかに霞んで見える風景が儚い雪の危うさによく似ていること、軸にちりばめられた細やかなラメが、光を浴びた雪のように輝く姿と重なって、手にした人をそんな気持ちにさせてしまうの誤謬かもしれません。
キャップを外すと、透明な首軸の中にはやや粗めのラメが溶け込んでいて、自然光やデスクの照明でも華やかな煌めきを書く人に届けてくれます。
また、筐体に合わせてコーディネートされた白いノブのコンバーターが付属していて、従来の黒いコンバーターノブとは異なり、美しい半透明の筐体のノイズにならない、配慮がなされていて、全体が統一された美しさを奏でます。
日常の中の非日常と出会う万年筆
忙しい日々の中で、流されて生きていると感じてしまう時、あるいは自分だけが時間に取り残されているような気分になってしまう時、手帳やノートブックに自分の思いを書き出したり、日記を書いたりして、自分と向き合うことで、頭の中はずいぶんと整理されます。
そんなふうに感情をリセットすると、いつもの通勤や通学の道で出会う風景のささやかな変化が見えてきて、昨日とは違う景色がそこにあることに気づかせてくれます。
どこまでも白い「霜冴ゆる」は、手の中で主張することなく、自分との対話に寄り添い、日常の中の非日常を気付かせてくれる、万年筆です。
筆者プロフィール
出雲義和・フリーランスライター
文房具を中心に様々なジャンルで執筆活動を行うほか、テレビやラジオにも出演。様々な視点で文房具の魅力や活用術を発信中。
works:雑誌書籍「趣味の文具箱」「ジブン手帳公式ガイド」「無印良品の文房具。」他、web「WEZZY」「マイナビおすすめナビ(監修)」他