1882年神戸で生まれ、多くの人から親しまれている文房具店「ナガサワ文具センター」が2025年5月15日に143年目の創業記念日を迎えました。
昭和から数えると100年目、戦後では80年となる2025年、それら歴史の節目より長い社歴を誇るナガサワ文具センターから、今年も周年記念を飾る限定万年筆が発売になりました。
例年、発売のアナウンスと同時に問い合わせや予約が殺到して、タイミングを逸すると店頭でお目にかかる機会すらないほどの人気シリーズです。
今年のモデル「143rd Limited 北野坂 -漆・長刀-」は、青森県八戸で活動を続ける創作漆芸作家の方と、ナガサワ文具センターが綿密に意見とアイデアを交換しながら、これまでにない漆万年筆を完成させたと伺いました。
軸のベースカラーとなっているのは、ナガサワ文具センターのオリジナル万年筆インク、KobeINK物語#38「北野坂ナイトブルー」で、神戸北野から見上げた美しい夜空を再現したインクです。
従来、漆の通常顔料では再現しづらいブルーカラーを、顔料に特殊なメタルを加えることで、見事に漆の中に北野坂のブルーを再現することに成功しました。
2002年の創業120年に登場した周年記念の万年筆は20年の時を経て、時代と共に進化を続けていくのを実感できます。
手に取って、書斎の照明に当ててみると、独特なブルーの中にメタルの微粒子が含まれていることに気がつきます。
ブルーを再現するための調合されたメタルと、このメタル微粒子を加えたことで、万年筆の中に無限に広がっていく宇宙空間までも再現させたのだとしたら、漆の可能性に驚くしかありません。
神戸に住んでいる人でないと、なかなか夜の風景に出会うことはありませんが、三宮駅から風見鶏の館、鱗の館へと続く、北野の坂を思い浮かべながら「143rd Limited 北野坂 -漆・長刀-」を重ね合わせ、まぶたの奥に北野坂の夜の風景を想像してみるのも、この万年筆の楽しみ方かもしれません。
21金の魅力
コラム(レビュー)を書くにあたり、ナガサワ文具センターさんからは、スペックにはあまり触れなくていいですよ、仰せ使っていますが、今回は「143rd Limited 北野坂 -漆・長刀-」で採用された21金のペン先についてちょっと紹介しておきたいと思います。
つい先日、2025年5月に新宿のとある百貨店で開催された文具のイベントで、フリーアナウンサーの堤信子さんとトークショーをご一緒しました。
そこで、書くことの魅力についてお話しをした際、近年”金の価格”が高騰していてという話題から、ペン先に金を使った万年筆は筆記具としての価値はもちろんですが、それと同時に、資産としての価値も認められるのではないか?
そんな万年筆を購入するのならどんなタイミングはいいののか?と訪ねられたら、ためらわず「今ですよね」というユーモア混じりの結論に至りました。
投資の対象といってしまえば悪いジョークになってしまいそうですが、ひとりの大人が使う道具として、万年筆以上にふさわしい筆記具はない、これからさらにそう認識される時代になると思います。
「143rd Limited 北野坂 -漆・長刀-」
近年、万年筆に採用されている樹脂は耐久性を備えながら軽量というモデルが多く、年齢やジェンダーにかかわらず、扱いやすい万年筆が主流になっているような気がしています。
そんな時代の流行の中にあって「143rd Limited 北野坂 -漆・長刀-」は、手の中にしっかりとした存在を持ち、長時間の筆記でも疲れを感じさせない、適度な重量感が、そしてなによりも高級筆記具としての上質な質感を備えています。
21金独特の柔らかなしなりはもちろん、長刀研ぎのペン先から奏でられる豊かな表現力は、まるでコンサートマスターとしてタクトを振るような気分です。
このモデルの最大の魅力は、創作漆芸作家の技術とアイデアで、万年筆の中に壮大な宇宙を閉じ込めたような仕上がり、これは実際に手にした人だけが体感できる、価格には含まれない特典といえます。
さらに、現在定番として流通している万年筆の中において、最高純度である21金と長刀研ぎのペン先を採用、そして最高の漆技法が施されて、すべてにおいて最高峰と呼べる万年筆です。
価格という点では、決して”お手頃”とはいえませんが、ナガサワ文具センターの創業を飾る周年記念の万年筆にふさわしい1本といえる「143rd Limited 北野坂 -漆・長刀-」です。
「143rd Limited 北野坂 -漆・長刀-」
発売日 2025年5月15日
価格 190,000円(税別)
ペン先 風見鶏デザイン/21金長刀
字幅 NMF/NM/NB
筆者プロフィール
出雲義和・フリーランスライター
文房具を中心に様々なジャンルで執筆活動を行うほか、テレビやラジオにも出演。様々な視点で文房具の魅力や活用術を発信中。
works:雑誌書籍「趣味の文具箱」「ジブン手帳公式ガイド」「無印良品の文房具。」他、web「WEZZY」「マイナビおすすめナビ(監修)」他