文字を書いて何かをしようという時、文房具好きならなおのこと、その道具選びに全力を挙げて取り組むものです。
紙のサイズはどのくらいにするか?
どんなノートか? いやノート以外にするべきか?
紙質は? 好きな紙は二、三あるが、良いのがあるなら新しい紙も知りたい。
どの筆記具で書くのかにもよるから、先に筆記具を決めたほうが良いか?
……などに始まり。そこから延々と道具選びの模索は続いていきます。
うっかりすると道具選びに全力を挙げすぎて、何かをする前に完全燃焼してしまう場合もあったりして…。あるいは目的をひとまず達成しても、まだ道具選びを模索しているとか。
小日向もそういうことを繰り返している一人です。
そんななか、システム手帳については「自分の役に立つものが詰まったファイル」と決めています。それはかつて1980年代のシステム手帳黎明期になかなか手を出せない価格をしていた記憶も相まって、せっかくそれを手元に置くのならば「自分専用の情報辞書を作る」目的に使おう、という感覚が根付いたのかも知れません。
革の表紙が多いところも、経年変化でいい感じに使い込んだ風合いになるところも、辞書のようだなと感じます。
そのようなわけで、言葉を覚えたい時にもシステム手帳のリフィルに書き記しています。
第五十回で紹介した、2016年8月1日発売の『システム手帳STYLE』はもう御覧になりましたでしょうか。
システム手帳気分がぐぐっと一気に盛り上がる一冊ですよね。
そちらの128ページ「編集スタッフが愛用するシステム手帳たち」のなかで小日向の挙げたものが冒頭写真のアシュフォード「イシュー」バイブルサイズ・リング径11mm・シルバーで、上の写真にある書き込みは『趣味の文具箱 vol.38』「旅は文具を連れて」18ページで撮影したものです。浜名湖畔にある星野リゾート 界 遠州」で、日本茶のレクチャーを受けながら走り書きをしたメモでした。
このアシュフォード・イシューはベルトなし。左のNOLTY 能率手帳1 普及版の天地144mm×左右95mmにたいして、イシューは天地193mm×左右110mmというサイズ比です。軽快に持ち運べる薄型で、裏表紙外側にはポケットも付いており、紙片を仮置きしておくのにも便利です。
紙片には、たとえば「今はシステム手帳を出してる間がない!」という時に走り書きしておいた5×3カードや、「この情報はあとで書き写しておこう」という印刷物などがあります。
特に印刷物やサイトなどで、これはピックアップしておきたいなと思う言葉や情報が多々あるものですよね。それらをできる限りすべて1カ所へまとめておくために、システム手帳は活躍してくれます。
リフィルの1枚を情報カードの1枚のように考えて、まずはざっくり覚えておきたい言葉を書いておき、あとから並べ替えて分類するという段取りです。
直近の小日向にとって増やしたい語彙は、香港で使われている広東語です。特にそれが母国語でない時には、限られた時間内にできるだけ多くの語彙を覚えなければなりません。そのためには「耳で聴いて身体に覚え込ませる」ことがまず大切ですが、「文字で書いてみる」ことも必須です。
上の画像は、教材から書き取りました。教材は1冊の本になっているし、持ち歩いてもいるのでそれを開いて読めば済むのですが、「これは自分にとって絶対大事」「このテーマには特に関心がある」という部分をこうして書き取り、音声を聴くと、身体への浸透率が大変高まります。
こちらは、香港の文具店のカタログからピックアップした文具言葉です。
万年筆は「墨水筆」といい、インクは「墨水」、さらにボトルインクは「瓶裝墨水」、カートリッジインクは「枝裝墨水芯」というのですね! なんだかその漢字表現に納得。
ボールペンは「原子筆」、筆ペンには「科學毛筆」、両側にキャップの付いた筆ペンには「雙頭科學毛筆」とあったので、なるほど両側キャップ式は「雙頭」になるのか……と書き記す運筆も乗ってきます。
日本の蒔絵万年筆には「彩繪墨水筆」とありました。つまり蒔絵は「彩繪」と。
他所で違う呼び方を見つけたらその都度書き加えたり、読み方も書き添えたりするために余白を多めに設けています。
書き間違えても良し、他の紙片から書き写している暇もなかったらその紙片をとりあえずマステでリフィルに貼っておいても良し、と見映えについては自らを思い切り許してやりながら、「とにかくここにそれらを書き記してひとまとめにし続けること」を優先します。
しかし、「ああ、ここの文字間違えた!!」「書き込みがごちゃごちゃになってる!」というところは、かえって良く記憶できるもので、むしろ歓迎すべき部分だなと感じます。
日常に使う日本語についても、絶えずあちこちを「語彙パトロール」しています。特にネットや新聞、街なかで目にする鮮度の高いものには興味深い表現が多く、目に留まったそばから書いておくと一覧して見た時に新たな発見もあります。その所感も書き添えておいたり。
もちろん他のノートや過去に使わなかった綴じ手帳など、自分にとって今しっくりくる道具を使うのも有益です。
文字の形を手でたどりながら、言葉への愛着を抱きつつ、文房具を味わい過ごしましょう!
小日向 京(こひなた きょう)
文具ライター。
文字を書くことや文房具について著述している。
『趣味の文具箱』(エイ出版社刊)に「手書き人」「旅は文具を連れて」を連載中。
著書に『考える鉛筆』(アスペクト刊)がある。
「飾り原稿用紙」(あたぼうステーショナリー)の監修など、文具アドバイザーとしても活動している。