長年お店で目にする万年筆インクといえば、パイロットのこちらのボトルインクが真っ先に思い浮かびます。
商品名は「インキ」。パイロットでは、インクを一貫して「インキ」と表記しています。ボールペンやマーカーでも、各社「インキ」と書かれていることがありますね。
インクとインキはいずれも筆記や印刷に使う液体を意味しますが、江戸期に西洋文化がオランダから伝わったことから「inkt(インキ)」というオランダ語で示されてきたといいます。
万年筆インクのことを「インキ」と言うと、なんだか懐かしい雰囲気がしてきて、このパイロットの小さな瓶にもぴったり合っているな…と感じる次第。
こちらの30mlインキの魅力はまず、その小さなガラスボトルのデザインです。
側面の文字に注目!
「30cc PILOT MADE IN JAPAN」とあります。右は先日使い切ったもの、左は今度開けるもの。こうして並べてみると、左のほうが心なしか文字の線が細くくっきりとして見え、ほんのり個体差があるところにもぐっときます。
この横側面は、インクがボトルの底まで減った時にここを下にして立てると、最後のインクまで吸い取るさいに役立ちます。
蓋には、手で握った時に回しやすいよう面をつけてあるところも良いですね。
書いてみたところはこのようで、パイロットのブルーブラックの色合いを示すため、左のパーカーのブルーブラックと比較してみます。
パイロットのブルーブラック色は、パーカーのブルーブラックよりもずっと「青い」ことを実感いただけるでしょうか。おおよそどのメーカーのブルーブラックよりもパイロットのものは青く、フレッシュな印象を抱きます。
そしてこの30mlの小さなボトルがまた、最後までインクをフレッシュに使い切ることができて大変良いです。
小日向は通常ボトルインクが半分くらいに減ってきたところで、ボトル内の空気でインクが劣化することを防ぐためにもタミヤの丸びん10mlに移し替えてしまうのですが、こちらの30mlならばこのまま使い切れてしまいます。
旅行中にはボトルごと持ち歩き、補充したりつけぺんに使ったりすることもしばしば。そして400円+税という価格も嬉しい限りで、旅先で買い足すことにも躊躇がありません。
現在、プラチナ万年筆の#3776 センチュリーにはすべてこのインクを入れています。
通常少なくとも3本、多くて6〜7本のセンチュリーを持ち歩いており、いずれにも同じインクを入れておくことで「どれがインク切れになっても、どれかのコンバーターを差し替えてしのげる」という点がとても扱いやすく、このニュートラルで爽やかなブルーブラック色がすっかり定番に。
プラチナ センチュリーとパイロット ブルーブラックの組み合わせについては、第四十九回「プラチナ万年筆 #3776センチュリー 河口」にも筆跡を載せています。
お礼状や、文具好きでない人への手紙(という手紙のジャンルがありますよね。文具好きにとっては!)にも「ブラックだと濃い、一般的なブルーブラックでもまだ濃い」という場面に選ぶインク色として、ほど良い濃さと青みをしていると感じます。
さて、ロングセラーであるこちらのパイロットインキ。昔のボトルも見てみましょう。
懐かしい……!!
この「ぽてっ」としたPilotの文字が、そそります。ボトルの形が蓋までまったく同じなのも嬉しくなりますよね。箱の黄色もいい雰囲気です。
そしてボトル横側面のエンボス文字は。
書体は違っていて凹凸は浅いものの、ある!
箱の上部も一緒に並べてみました。昔のものの斜め使いのレイアウトも秀逸です。
こうなれば、さらに箱を開けたところの注意書き比較も見ておきたいところで…。
左の昔のものには、『ご注意 ●インキは化学製品です たとえ同質の種類でも配合が異なりますから少しでも混ぜますと化学変化を起こします』とあり。
その後の注意書きは文章量が格段に増えて、右の現行品と中央の数年前のものはほぼ同じではありますが、中央での『〜下さい』の表記が、右では『〜ください』とひらがなに変えてあります。
その他、これらの途中の時代には洗剤などの表記もあったような…? 今後探してみたいと思います。
パイロット インキ ブルーブラックには、カートリッジをはじめこちらの30mlボトル以外に、プランジャータイプ万年筆のインク補充にも向く70mlボトル、そして通称「ポン酢」と呼ばれる大容量の350mlボトルもあります。
空きのボトルがたまったら、いずれポン酢ボトルを小分けしよう…という楽しみは、未来にとっておきたいと思います!
小日向 京(こひなた きょう)
文具ライター。
文字を書くことや文房具について著述している。
『趣味の文具箱』(エイ出版社刊)に「手書き人」「旅は文具を連れて」を連載中。
著書に『考える鉛筆』(アスペクト刊)がある。
「飾り原稿用紙」(あたぼうステーショナリー)の監修など、文具アドバイザーとしても活動している。