ナガサワ文具センターの売場にもアイテムが並ぶ「榛原(はいばら)」は、東京・日本橋に200年以上続く老舗和紙店です。
文化3(1806)年に江戸日本橋で和紙小間物販売を始め、雁皮(がんぴ)という植物から作られる筆あたりの良い稀少紙「雁皮紙(がんぴし)」が江戸の人々に大変な評判となったといいます。
現在の店の暖簾にも「雁皮紙榛原」の文字があり、榛原の看板商品であることがうかがい知れます。
また、和紙に木版摺りを施した千代紙、団扇、祝儀袋などの金封、はがきや便箋などのオリジナル商品も多数扱われ、人々の心に響く和紙製品が揃っています。
「和文具は、使う場面があまりないかなあ」と思う方もおられるでしょうか。
そんな人にもお勧めしたいのが、冒頭写真の「蛇腹便箋レターセット」です。
榛原の誇るロングセラーのひとつがこの蛇腹便箋で、紙ケースを開けると長~い便箋が蛇腹状に折り畳んであります。
この折り目ごとにミシン目が入っていて、好きな場所で切りはなすことができるというユニークな便箋で、近年様々な柄のものが発売されています。
文字を書き込むと以下の通り。▽
1枚で切ると短冊状の一筆箋になり、
右上のように横書きにしても良く、
また長めの手紙はずーっとつなげて書き終えたところで切る。
という風に使えるのです。
・一筆箋スタイルの1枚は「東京日本橋」の柄に、プラチナ万年筆 #3776 センチュリー 字幅F×パーカー ブルーブラック
・横書き2枚は「千鳥」の柄に、ペリカン スーベレーン M400 字幅EF×ペリカン エーデルシュタイン アメジスト
・縦書き4枚は「瓢簞」の柄に、パイロット カスタム845 字幅B×パイロット 色彩雫 松露
で書きました。
御覧の通り、用紙は万年筆での描線の仕上がりも抜群! 柄の色みによって、インク色と合わせる楽しみも広がります。
「東京日本橋」や「瓢簞」など、男性の書く手紙にもぴったりなのではないでしょうか。
宅配便の荷物に一筆添えたり、ちょっとした御礼の手紙をしたためるのにもスマートです。
蛇腹便箋レターセットには封筒も10枚付属しており、書いた蛇腹便箋を元のように折り畳めば、ぴったりと封筒に入れることができます。
ああ楽しい。
和紙の榛原がなぜ、このような蛇腹の洋紙製品を得意にしているのかというと、計測機の記録紙にもいち早く着目していたためです。
大正時代に産業が発展した頃、それまで西洋からの輸入に頼っていた計測記録紙の製造に日本で初めて成功し、昭和時代には記録紙専用の自社工場を設立。その品質の高さから米国・アポロ計画に採用されたこともあるといいます。
何を作るのにも本気なのです、榛原は! そんなところにも心を引きつけられてやみません。
そして蛇腹便箋には、手紙を書くだけではない用途もあり。
4枚で切りはなして半分に折り、A5サイズのパンチで穴をあけると、以下のようなリフィル用紙にも変身するのです。▽
これにはわくわくが止まらない!
写真の柄は「色はけびき」。A5サイズのシステム手帳に綴じています。ルーズリーフのリフィルにしても良いですね。A5サイズに少し天地が短いぶん、写真で下揃えにした位置で穴をあけているのは、バインダーのページ上部で他のA5ジャストサイズの紙と区別をつけて開きやすくするためです。
日ごろのノート記述に使ったり、ちょっと一筆したためたい時にはそこから1~2枚破って使ったり。夢がさらに広がります。
蛇腹便箋には話題にした通常サイズの他に、手のひらにのるほどの「ちいさい蛇腹便箋」もあります。こちらはメッセージを一言添えるのにちょうど良く、榛原伝統の千代紙模様がモチーフとなっていて可愛らしいことこのうえなし。
文具使いの様々な場面で活躍してくれる蛇腹便箋シリーズを、ナガサワ文具センターで取り扱いのある、エンヌさんちか店、梅田茶屋町店でぜひチェックされてみてください!
小日向 京(こひなた きょう)
文具ライター。
文字を書くことや文房具について著述している。
『趣味の文具箱』(エイ出版社刊)に「手書き人」「旅は文具を連れて」を連載中。
著書に『考える鉛筆』(アスペクト刊)がある。
「飾り原稿用紙」(あたぼうステーショナリー)の監修など、文具アドバイザーとしても活動している。