小日向京のひねもす文房具

小日向京のひねもす文房具|第三十四回「鉛筆の名入れ」

鉛筆の名入れ

4月は新入学の季節。新入学といえば自分にとって、今は昔となってしまいましたが、小学校へ入学する時に作ってもらった「名入れ鉛筆」を懐かしく思います。
当時は新一年生になるための新しいアイテム──ランドセルをはじめ帽子、筆箱、道具箱、体育着など──がとてつもなくあって、ひとつずつじっくり味わうこともままならなかったものですが、大人になると「あの時の、新しい道具がいっぺんに増えた喜びは大きかったなあ」としみじみ思います。そんななかでとりわけあとから味わい深く思うものが、名入れ鉛筆でした。

だってあの金箔で刻印された文字の美しいことといったら!
それが木の上へ何層にも塗られたつやつやの軸に刻印されているのだから。
その刻印が自分の名前であるということよりも、とにかく刻印文字の凹みに見とれてしまい。
あの頃は良かったなあ……と思うのでした。

しかしそれは「あの頃」だけのものにあらず。この進化めざましい現代にあって、なんと今でも昔と変わらぬ方法で鉛筆に刻印を入れられるのです。
そして自分はとうに大人となっている。これは作り放題ではないか!
と、ある時に気づいていらい、鉛筆を買う時には名入れをしてもらうようになりました。

ナガサワ文具センターでも、鉛筆に名入れを施してもらえます。
箔押し機を設けて常時名入れをできる店舗は、本店・アスピア明石店・プレンティ店・n→スクールショップの4店舗。
鉛筆1ダースのお買い上げで、なんと無料で行ってもらえるのです!
入れられる文字は箔押し機では「ひらがな」のみとなり、鉛筆のデザインにもよりますが12〜13文字は入れられるとのこと。
仕上がりまでの時間や日数は混み具合によって変わるらしく、そこは要確認となります。

さあ、祭りだ祭りだ! 好みの鉛筆1ダースに名入れをしてもらおうではありませんか。
もちろん刻印する文字は名前でなくてもOK。
小日向の直近の名入れは以下のようでした。
どの面に刻印したのかがわかるように、六角軸鉛筆の6面すべてを示しておきます。
まず三菱鉛筆「ハイユニ」の場合。▽

鉛筆の名入れ

一番上がメインにあたる「Hi-uni」が冠された面で、そこから回転させつつ6本並べて示しています。
この最初から刻印されている文字もまた魅力で、一番上の面の三菱マークや「MITSU-BISHI」のハイフン入りの表記はもちろん「ESTABLISHED 1887」のちょっと斜体がかった書体も素敵ですよね。
意外にもハイユニには過度な刻印がなされておらず、6面すべてに刻印されているのは端の黒い部分にある硬度表記の「HB」のみです。あとはメイン面の対向面に「HB」「JAPAN」とあるのみ。この「HB」部分にはたっぷりと金箔が使われており、さすが最高級鉛筆と感心させられるものです。
空白の面は4面もあり、選択肢が多くて嬉しい。
では、どの面に刻印するか。
どこを選んでもメイン面か対向面の隣りになることは必至なので、ここでは3つ目の面にしました。
「こひなた」の始まり位置は、黒と海老茶色部分の境目を始点として、「HB」の空間と揃うようにしています。これは、メイン面の「/Hi-uni/」の右端に合わせるのも一案です。
箔はこの時、銀もあったので銀箔にしています。

続いて、三菱鉛筆の赤青鉛筆「朱藍鉛筆 No.772」の場合。▽

鉛筆の名入れ

こちらには名前ではなく、小日向の監修した製品「飾り原稿用紙」(あたぼうステーショナリー)の商品名をひらがなにして入れてもらいました。験(げん)担ぎも兼ねて。このように愛着のある言葉や、目にするたび気分の上がる言葉を好きなふうに刻印してみるのも、大人になってこその楽しみです。

赤青鉛筆は両端から同時に削っていくので、刻印は中央に配しています。文字数の真ん中で「かざりげん/こうようし」と赤青境界線で区切ってもよかったのですが、このような漢字を必要とする言葉は、切りのいいところを境界線に充てるのが良いようです。
面はこちらもハイユニ同様に4面が空白で、同じく上から3つ目の面にしましたが、これは上から4面目・メイン面対向の「三菱鉛筆」刻印のある面にしても良かったかも知れません。

それにしてもこの対向面の「三菱鉛筆」は、実に味わい深い書体をしています。
◆かなり上下に広げて画数の多い他の3文字とのバランスを取ったと思われる「三」
◆旧字の草かんむりが間で離れていて「十十」のようになり、あたかも三菱マークの輝きを示しているような「菱」
◆金偏(かねへん)が右の旁(つくり)にたいしてちょっと長く、右下の「口」が下を丸めてあり、あどけない愛らしさを漂わせる「鉛」
◆竹かんむりが傘のようにも見えて、まっすぐで凛とした「聿」さんが雨に降られ傘をさしてたたずんでいるような「筆」
…いやはや、たまりません。
削って短くなりつつある時、この「三菱鉛筆」文字部分にさしかかると「ここを削るのは惜しい!」と躊躇してしまうことがしばしば。どうにか乗り越えなければ……これも真ん中に配してもらいたいと願う次第です。

最後に、三菱鉛筆「9850」の場合。▽

鉛筆の名入れ

こちらは消しゴム付きの鉛筆です。
最初から刻印されている文字は上の2製品に比べると賑やかで、硬度表記は名入れ検討ゾーンにかけて1面おきに入っており、メイン面と他に文字数の多い面とは対向になっていません。
どこに刻印するべきか。これは難題ですぞ!
と、ひとしきり迷ったこの刻印は、2月にNAGASAWA 煉瓦倉庫店で開催された鉛筆イベントのさいに自分で入れたもので、名入れ機械を使えるコーナーが三菱鉛筆によって設けられていたのでした。これは夢のようなひとときでした。また開催していただきたい!

思案の結果、1面おきに3面入っている硬度表記「*HB*」のうち、文字刻印のない上から5つ目の「*HB*」面に刻印を入れました。
これは他の文字の右端に空間を揃えると、なお良かったのが反省点。この位置調整がなかなか難しく、日ごろ自分の位置希望を叶えてくれていた店員さんたちに尊敬の念を抱くことしきり。いつもありがとうございます。

名入れを施した鉛筆に抱く愛着は、またひとしおなものです。
まだ鉛筆の長い使いたての時も綺麗でいいけれど、削って削って短くなってきた時の刻印も魅力的です。

鉛筆の名入れ

ここまで短くなってきて名入れ刻印まで削れてくると、これがまた素敵!
何がどう素敵なのかと言葉を探してみれば、
「机に転がした日も、鞄に投げ込んだ日も、耳に引っかけていた日も、またたく間に、そしていたずらに過ぎただけのように思えた時間を〝それは確かにそこにあって、その時々をあなたは全力で過ごしていたのですよ〟と、この短くなった鉛筆が削られて減った刻印とともに物語ってくれている」
という「素敵」なのだと感じます。

そもそもの名入れの役割である「持ち主がわかる」という点についてはこれまでと何ら変わらず、大人になってみると「心を励ましてくれるちょっとした要素」も役割のひとつのように感じさせられる、鉛筆の名入れ。
これからもずっと続いてくれることを願います。

小日向 京(こひなた きょう)

文具ライター。
文字を書くことや文房具について著述している。
『趣味の文具箱』(エイ出版社刊)に「手書き人」「旅は文具を連れて」を連載中。
著書に『考える鉛筆』(アスペクト刊)がある。
「飾り原稿用紙」(あたぼうステーショナリー)の監修など、文具アドバイザーとしても活動している。

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