ファーバーカステルの伯爵コレクション「グラフ・フォン・ファーバーカステル」のなかで、ひときわ目を引くシリーズがギロシェです。
ギロシェとは、波縞模様のこと。
ジュエリーや銀細工で知られる装飾技法のなかでも伝統的な模様がギロシェで、その名を冠したこのシリーズの特徴は、レジンから金属まで各種にわたる軸素材にあります。
磨き抜かれたキャップ・尻軸・グリップ部と軸とのコントラストを味わえるのがギロシェの真骨頂であり、そんななかキャップのない回転式のボールペンやペンシルは、すらりと長い軸素材を手にしながら金属素材との組み合わせを楽しめるところが魅力です。
今回はそのペンシルから、「シェヴロン」を紹介しましょう。
シェヴロンのV字を重ねた模様は、カランダッシュのエクリドールでもよく知られていますね。
エクリドールでのシェブロンについては第七十八回に書いた通りで、このV字の山形模様は欧米文化の至るところで目にすることができます。
もっとも日本文化でも、ヤマサ醤油やヤマサちくわなどのロゴ「∧+サ」の「∧」は山を示しているわけで、シェヴロンの仲間と言えるかも知れません。
シャープペンシルは0.7mm芯で、この天冠部をひねると芯が出てくる回転ノック式です。
クリップにはバネが仕込まれ開きもホールド感も良い作りで、スーツやジャケットのポケットへ抜き差しする時にもスピーディーにこなせます。
▽こちらは芯を1ノック出したところです。
▽こちらは芯を2ノック出したところ。
1〜2ノック目でどのくらい芯が出るのかは気になるところですよね。
私の場合、2ノック芯を出して書き始め、ちょっと芯が長めに出ているなぁと思いながら軸を寝かせぎみにして書き、いい感じに減ってきたら(だいたい1.5ノック〜短くなるまで)軸を徐々に立てぎみにして、0.5ノックくらいの芯の長さになったら1ノック芯を出し、
「ちょうどいい1.5ノックになった!」
と喜んでいます。
このギロシェシリーズのペンシルで最も目を引くところは、「軸から芯先へ向かう円錐形の長さ」です。
鉛筆の削り口と比べると、こんなに長い。
長っ!!
こんなに長くていいのだろうか…と不安がよぎるほどの長さですが、この長い円錐形の先から姿を現す黒鉛芯で文字を綴ると、まるで魔法の杖を手にしたかのようにすらすらと書き進める感覚を抱きます。
こちらは急場の記述時、付近に紙がこれしかなく、レシートの裏に書いたものでした。
すいすい進み、入れ込んでしまう快適な記述。たとえ文字が乱雑でも、こんな時にとても嬉しくなるものです。
ある時には喫茶店でM5マイポケ・イエローとともに、書き味を楽しみました。
カプチーノのラテアートは、どうも私の似顔絵にしてもらったようで?!
軽快に書けるギロシェのペンシルは、こんな喫茶店でのひとときにも似合います。
書くたびほのかにキラキラ光る、軸のシェヴロン模様もエレガント。
ポケットに1本、忍ばせてみてはいかがでしょうか。
小日向 京(こひなた きょう)
文具ライター。
文字を書くことや文房具について著述している。
『趣味の文具箱』(エイ出版社刊)に「手書き人」「旅は文具を連れて」を連載中。
著書に『考える鉛筆』(アスペクト刊)がある。
「飾り原稿用紙」(あたぼうステーショナリー)の監修など、文具アドバイザーとしても活動している。