明石海峡
JR山陽本線で大阪・神戸から西へ行くのなら、ぜひ進行方向の左側、海が見える席に座って欲しいと思います。JR垂水駅に近づくと、本州と淡路島をつなぐ全長3,911メートルの世界最大級の吊り橋 明石海峡大橋が眼前に迫る圧巻のロケーションを楽しめます。
この穏やかな明石の海には、海底の一部が急激に深くなる場所があり、明石鯛やイカナゴ、タコなどが捕れる環境を生みだして、明石海峡を豊かな漁場としています。明石市立文化博物館に展示されている明石の伝統的な漁船「ケンサキミヨシ」の剣を思わせる特徴的な舳先は、明石海峡の難所を乗り切るための工夫とされています。
ゆほびか
2024年11月に発売になったKobe INK物語「ゆほびか~YUHOBIKA BLUE~」の名前となった“ゆほびか“とは「豊かで広々としているさま」といった意味で、日本の歌人 長塚節(ながつかたかし)の歌に「真白帆のはららに泛ける与謝の海、天橋立ゆほびかに見ゆ」とあり、日本海に接しながらも、湾に囲まれ波穏やかな宮津の海を謳っていますが、「ゆほびか」という言葉は、日本最古のラブストーリー源氏物語の中にも登場します。
源氏物語と明石
2024年のテレビドラマで話題になっている「源氏物語」は、紫式部(藤式部)の作品で都(京都)を舞台とした物語ですが、主人公の光源氏(光の君)は、ここ明石で短い期間を過ごしたエピソードがあります。
「源氏物語」そのものはフィクションであるため、光源氏が実際に明石で暮らしていたわけではありませんが、大の文学好きだった明石藩五代当主・松平忠国公が「源氏物語十三帖・明石」にゆかりのある場所を文学史跡としました。さながら、現在の観光ツーリズムと聖地巡礼、はたまたは推し活の先駆けと言える入れ込みぶりです。
漁業繁栄の神として漁業に営む人たちから熱い信仰を集める岩屋神社の境内には、光源氏が月を愛でたとされる月見の松があり、無量光寺にも同様の月見の名所が今に残ります。また、光源氏が「明石の君」の住まう岡部の館まで通ったとされる無量光寺山門前にある細い道は、「蔦の細道」とされています。
また源氏物語だけでなく、明石の街づくりにひと役買った人物として知られる剣豪 宮本武蔵が作庭したと伝わる枯山水の庭の一部が残る善楽寺(円珠院)や、松平忠国公によって作られた旧波門崎灯籠堂(旧灯台)は、現存する日本旧灯台として2番目に古いものとして明石指定文化財にもなっています。
源氏物語の中でも、「ゆほびかなる」と紹介された明石で、京都を追われた光源氏が、「明石の君」と出会い、傷ついた心と身体を癒したのかもしれません。
インク「ゆほびか-YUHOBIKA BLUE-」の魅力
「ゆほびか-YUHOBIKA BLUE-」には、これまでのKobe INK物語とは趣が異なるパッケージに仕上がっています。国内外で活躍されている絵本作家たなかしんさんの描きおろしによる、明石鯛(マダイ)、明石蛸(マダコ)や穴子、アカシゾウ(アケボノゾウ)など、明石を代表するスターたちが表情豊かに描かれています。
海と言えば青く輝く光景を思い浮かべますが、「ゆほびか-YUHOBIKA BLUE-」ではやや深い青と緑がかった色で再現されています。
古くからの漁師の間では「明石の海は黒い」と語る人がいて、海底が深く光が届かないからとか、大漁の時には魚の群れで海が埋め尽くされるからとかいくつかの説が今に残り、そんな情景がインクの色に表れているのかもしれません。
ナガサワ文具センター明石三原色の最後を飾る「ゆほびか-YUHOBIKA BLUE-」は、明石海峡に関わる自然や人の営みを内包し、万年筆から流れ出るインクは、たなかしんさんのイラストに描かれた明石が溢れ出て、文字を書くたびに、楽しいヴィジュアルに囲まれたような気持ちになります。
このインクをつめた万年筆を鞄に入れて、明石の町を歩きながら、しばらくご無沙汰の友達にハガキのひとつも書いてみたくなりました。
筆者プロフィール
出雲義和・フリーランスライター
文房具を中心に様々なジャンルで執筆活動を行うほか、テレビやラジオにも出演。様々な視点で文房具の魅力や活用術を発信中。
works:雑誌書籍「趣味の文具箱」「ジブン手帳公式ガイド」「無印良品の文房具。」他、web「WEZZY」「マイナビおすすめナビ(監修)」他